生まれ育った丸の内で
静寂の中に見つけた
禁酒会館という居場所

004 「 珈琲屋ラヴィアンカフヱ 阪本 雅人 」

2018年9月5日

様々な個性を持った人がいるように
街にも、様々な個性が光るお店がある。
旧内山下小学校の石垣を借景に
「珈琲屋ラヴィアンカフヱ」を営む
“マティ” こと、阪本雅人さんは
このエリアで生まれ育ち、働き、暮らす
生粋の地元人である。
大正時代から地域を見つめてきた禁酒会館の
その硬派で静かな佇まいとどこか似ている店主は
街なかの喧噪から解放される静寂と
丁寧に焙煎された珈琲とともに
訪れた人々を優しく癒す空間を提供してくれる。
慣れ親しんだ街に根を張る覚悟とともに
地元への想いや
自身の今とこれからについてお話を伺いました。

 

 

_________________________________________________________

 

 

__

マティは生まれも育ちも、このエリアが地元よね。

 

阪本

地元ですね。

 

__

この界隈で、こどもの頃はどんな感じで過ごしてた?

 

阪本

こどもの頃は、この辺りはその頃の通学路だったりとか。
内山下幼稚園、内山下小学校、丸の内中学校に通ってたから。
幼稚園はかろうじて残ってるけど、
ただもう中学校は県立図書館になって、小学校は廃校になったしね。

 

__

小学校、中学校は、なくなっちゃったもんね。

 

阪本

やっぱり寂しい感じはあるけどね。
ただ、思い出として思い出すことはあるし、
色々この辺で遊んだ記憶とかあるけど、
大人になってからの方が長いから。
幼稚園の2年間、小学校の6年間、中学校の3年間を足しても、
さほどでもないというか。
そこから後の何十年かの方が長いし。
で、今この店も、この6月に16周年を迎えて、
今、17年目なんですけど。

 

__

そのこども時代を、もう超えてる。

 

阪本

超えてるんですよ。
でもやっぱり、すぐそこに内山下小学校があったりとか、
この辺で、普通に買い物したり、通勤したりするのも、
昔の通学路をそのまんまトレースしてっていう。
言ってみれば、
住むところはちょっと変わったけど、
行動範囲はあまり変わってないから。

 

__

今、何歳だっけ?

 

阪本

今、45になりました。

 

__

じゃあその45年間、この界隈にずっといるわけよね。

 

阪本

しかも、あちこち県外に出たりとかいうのもないし、
実際住んでるところも、
京橋から表町に代わって、今は国富の方で、
エリアは変わったけど、この周辺。
中心に旭川があってとか、
河川敷とかも慣れ親しんだ場所なので、
特別な場所ではないし。
そういうのも、毎日のように見てるから。

 

__

もう本当に日常の場だよね。

 

阪本

日常の場所ですね。
仕事の場所でもあるし、暮らしの場所でもあるし。
だから本当に、身を置いてずっと年月が経ってるけど、
根付くところっていう意識はある。
このお店のオープンの話があった時も、
誰でも良かったわけではなかったらしく。

 

__

それはオーナーさんが?

 

阪本

その当時のNPO の方々が、
この禁酒会館の一階を、
もう一度人が集まる場所にしようというプロジェクトがあって、
会館さんに働きかけて、
大きな事業として1階を作っていく、再生するっていう。
店がいくつか入って、シェアしてっていう場所で、
僕のところはこのカウンターだけが最初のスタートで。
この、5席だけのカウンターのお店が、最初のラヴィアンカフェ。

 

__

ちっちゃいスモールオフィスがいっぱいあって。

 

阪本

2坪ぐらいのショップがいくつかあって、
並んでっていうのがスタートで。
以前働いてた店を卒業するってなった時に、
ちょっと考えてみて、っていう風にスカウトしてくださって。
1店舗だけを構えるわけじゃないから、
金銭的な面でもリスクは少ないだろうし、
なんとかなるかなというのはあったけど。
でも実際に独立して店がやれるのかっていうのは、
最初はすごい不安と言うか。

 

__

コーヒーはずっとやってたけど。

 

阪本

ずっとコーヒーの修行はやってたけど、
独立の話になるとも思ってなかったから。
で、声かけてもらった時に初めは、
やっぱりちょっとどうしようかなって不安もあったけど。
でもこの場所を、他の人に取られたくないとうか。

 

 

__

そっちの方が大きかったんだ。

 

阪本

そっちの方が大きかった。
禁酒会館っていう建物は、
小さい頃から、何かわからないけどずっと在って。

 

__

ずっと、気になってた場所?

 

阪本

そう。
でも入ったことはなくて、
実際に店をするとかっていう話の時に、
下見として初めて中に入らせてもらって。
それで、ずっと見ていたわけのわからない建物が、
今度は自分のお店になるかもしれない。

 

__

見方が変わるよね。

 

阪本

大正時代からの建物だし、
レトロなカフェを作ろうと思ったらいくらでも作れるけど、
この、本当に歳とった建物は作れんじゃんと思ったら。

 

__

本物だもんね。

 

阪本

そう。
それで、マティが無理だったら、他の人にお願いするわ
って言われたら、
他の人が店をするっていうことが想像できなかった。
で、ここは俺がやりたいって。

 

__

うんうん。

 

阪本

だからそういう意味でも、
地元っていうものに鷲掴みにされてる部分が、
最初の衝動だから。
どこでも良かったわけでもないし。
いろんな巡り合わせやタイミングが合致した時に、
じゃあ乗っかっちゃえ、みたいな。

 

__

ご縁というか、運命感じちゃっうよね。

 

阪本

そうですね。

 

__

こどもの頃は無意識に見ていた建物との巡り合わせがあって、
16年やってきて。
この界隈の街の移り変わりって、感じることある?

 

阪本

中心が表町商店街で、
そこに繋がる形でいろんなお店が枝分かれして、
広がっていって、っていう分布だと思うけど、
表町商店街が、今、弱いでしょ。

 

__

そうね。

 

阪本

こどもの頃には人がたくさん集まって、
そこから少し離れたところに面白いお店があったと思うけど。
それがこの辺の、丸の内エリアだったりとか、
あとは、オランダ通りだったりとか。
ちょっとメインから離れたところに、いろんなお店があって。
それが、メインがなくなっちゃってるから。
だから、歩く人が少なくなってるのかなっていう。

 

__

ただふらっと目的なく
街をお散歩するって感じでもないのかな。
目的となるものがないと、歩かないのかな。

 

阪本

うん。
こどもの頃から
石山公園は普通に公園としてあって。
だけど公園として成り立っているのかっていうと、
今はもう本当に、年に何回かのイベントの時だけに
人が集まるみたいな感じで。

 

__

基本、通り道だもんね。

 

阪本

そこに何かあるっていうわけでもないし、
人がこの界隈を楽しむコンテンツとしては弱いのかなって思う。

 

__

こどもの頃は、石山公園で遊んだりしてた?

 

阪本

遊んだりしてました。
あんまり覚えてないんだけど、
今の石山公園の前の状態の時があって、
ただの広場みたいに、草とか芝生とかはあったかな?
でも、しだれ桜とかは、当時はまだなくって。

 

__

一応、公園だったの?

 

阪本

石山公園、っていう名前はあった。
あのステージ周りのレンガの舗装とかは、
だいぶ後になってから整備されたんだと思う。

 

__

それって、中学ぐらい?

 

阪本

中学ぐらいかな。
逆にもう、公園とかでうろうろしたりとか、
遊びに行ったりとかしない年齢になってたかな。
きれいになったらしいよ、とかって聞いて、って感じ。

 

 

__

石山公園でイベントがあったりした時って、
お客さんの影響とかってある?

 

阪本

ここはあんまりない。
最近のイベントの傾向は、
イベントに行くと、そこで終わっちゃうお客さんが多いから。

 

__

お店に寄ったりって、あんまりないんだ。

 

阪本

帰りに寄ったりってことは、ほとんどないです。

 

__

お客さんの中では、そこで完結しちゃってるのかな。

 

阪本

石山公園で食べたり飲んだりして、終わり、
みたいな感じで。
今までの経験上、
石山公園でイベントがあったり、
表町商店街で、誓文払いとか、パリ祭とかがあっても
そこに行ったお客さんが、その前後に流れてくるかと言うと、
そういうわけではない。
そこで終わっちゃうんですよ。
花見の時期とかも、うちはいつもとそんなに変わらず。
ただ、土日は観光のお客さんとか、
何かしらを見てくれて、
この辺でコーヒー飲んでちょっと休憩しようって、
わざわざ狙ってきてくださる方はいるんですけど。
逆に、地元の方とかは、
お祭りやイベントには行くけど、
帰りにじゃあちょっと気になるから寄ろうか、
みたいなのはあんまりない。
岡山の人の性格的なものもあるかもしれないけど。

 

__

地域性なのかな。

 

阪本

あっちに行って、ついでにこっちにも寄って、
みたいなのはあんまりしない感じかなって。
なんとなく、同じエリアなんだけど、
うまく噛み合ってない感じはあるかな。

 

__

それもったいないね。

 

阪本

もったいないですよね。
かといってじゃあ、お祭りに乗っかろうとか、
イベントに乗っかろうかっていうことを考えるわけでもないし。
このエリアに人が来るっていう流れとか、
人が歩いてるっていう状況ができるといいかなっていう。
でも、なかなか歩かないですよ。

 

__

そっか。
車が多いのかな。

 

阪本

車が多いでしょうね。
だから駐車場には止めるけど、すぐ出ちゃう、みたいな。

 

__

禁酒会館って、すごく特徴的な建物だから、
気になって立ち寄りそうなイメージだけど。

 

 

阪本

外から覗くとか、
ガイドブックに載ってたりするから、
ちょっと気になるって人が入ってきたりとかはあるけど。

 

__

入りにくかったりするのかな?

 

阪本

入りにくいと思うよ。
よく聞きますね。

 

__

躊躇しちゃうのかな?

 

阪本

何回かは前を通ったことあるけど、とか、
昔から知ってるけど、とか。
でも入ったことないとか。
未だにカフェとしてコーヒー屋として認知されていない。

 

__

えー、本当に?

 

阪本

こんなところにコーヒー屋さんがあったんですね、みたいな。

 

__

そうなんだ。

 

阪本

もう16年やってますけど。
この建物自体は知ってるけど、
中で何やってるかは知らない、みたいな感じ。

 

 

__

地元だと、身近なものは街の風景に溶け込んじゃってて
案外、そんなものかもしれないね。

 

阪本

地元の人は特にね。
車で通るけど、とか。
だから未だに、年に何人かは、
気になってて、今日初めてきました、
とかいう声を聞くことがある(笑)。

 

__

何年越しかの思いを(笑)。

 

阪本

そういう人たちは来て、絶対それを言って帰るんですよ。
こっそりは帰らない(笑)。

 

__

やっと思いを遂げられたって感じなんだ(笑)。

 

阪本

ずっと気になってて、やっと来れました、って(笑)。

 

__

来られてよかったねぇ。

 

阪本

そういう時は、
大抵うちの母親が会話の相手をしてるんですけどね。

 

__

怖くなかったでしょって。

 

阪本

大丈夫ですよ。
そういうお客さん多いですよ、みたいな。

 

 

__

じゃあ常連さんと一見さんだと、常連さんが多い?

 

阪本

オープン当初は、仕事帰りに来たら、みんな知った顔がいる。
そういうノリが結構あったけど、最近はそういう感じでもないから。
お休みの日にはいつも毎週来てくれるお客さんとか、
新しく通って来てくれるようになった方とか。
あとは、土日メインですけど、
観光の人とか、県外からの人が多いかな。
若いカップルも結構来るけど、おじいちゃんおばあちゃんも多いし。
すごく幅広いんですよ。

 

__

そうなんだね。

 

阪本

今流行りのカフェみたいに、
年齢のターゲットを決めて、
それに合わせてメニュー構成とかも決めて、
みたいなお店ではないから。
建物ありきみたいなところもあるし。
昔からこの辺に住んでいる人とか、
若い人が面白がって来てくれたりとか、って感じ。

 

__

建物の中で音を流してなかったり、メニューもシンプルだったり。
そういうところへのこだわりってあるの?
理想の形みたいな。

 

阪本

ずっと最初から、ここは理想的ではあった。

 

__

まず、禁酒会館という場所が。

 

阪本

そう。場所が。
最初は、いろんな雑貨屋さんやアクセサリー屋さんが、
一緒に空間をシェアしていたから、
何をBGM に流すというのも、選択が難しい面もあったし。
だから逆に、音はない方がいいというコンセプトだったんだけど。
今はうちのお店が一階全部なので、
音をかけようと思ったらかけられるんだけど。
でも、なんにもかけない方が自分としては。

 

__

心地いい?

 

阪本

心地いいかな。
あとは、街の音というか、
路面電車の音だったり、
雨の音だったり、
そういう自然の音が聞こえる店っていうのも、
あってもいいのかな、っていう。

 

__

音楽、街中に溢れてるもんね。

 

阪本

今はね。
だから、音が無い空間っていうのが無いでしょ。

 

__

無いよね。
静寂が欲しくなるよね、たまには。

 

 

阪本

人の話し声だったりとか、食器の音だったりとか。
単に生活音もあったりするけど、
音楽に誘導されない空間っていうのは、
あってもいいのかな、っていう。
当初のコンセプトをそのまま引き継いだ感じではあるけど、
自分自身にとっても、心地いいというか。
だから終わって店閉めた後に、仕込みする時とかは、
好きな音楽かけたりとかはある。

 

__

そうなんだ。
それで、テンション上げて?

 

阪本

そうそう。テンション上げて(笑)。

 

__

最近、中庭でのライブとかはやってるの?

 

阪本

最近もやってるみたいですけど。
以前は、隣が駐車場じゃなかったから、
中庭が閉鎖された空間になってて。
だからこそ、やる側も見る側も面白がってたけど。
今は外から丸見えだから…。
音が逃げちゃうっていうところもあるからね。
わざと、西手櫓をライトアップして見せるみたいな
背景としての櫓という演出でやる団体のライブ以外は、
ほとんどやらなくなってるみたい。

 

__

あの、閉ざされた空間が、よかったもんね。
私も、何回かライブ観に来て、すごくよかった。

 

阪本

そうそう。

 

__

内山下小学校の校庭の隅にある西手櫓が見えるようになったのは、
街や通りからしたら面白いけどね。
今までビルで隠れていた
国指定重要文化財が見えるようになったわけだから。
だけど、ここの中庭のことで考えたら…。

 

阪本

中庭のことだけ考えたら、
隣にビルがあってくれた方がよかったかな、っていう。

 

__

街なかが、駐車場ばっかりになったりとか
都市計画と、街の個人商店とのバランスとか、
なかなか難しい問題のひとつだよね。

 

 

__

マティはずっとコーヒーをやってきて、今に至るわけだけど。
お店のメニューは、とってもシンプルで
こだわりが感じられるよね。

 

阪本

メニューの構成もシンプルにしてるのは、
基本一人でやるって言うことで、
無理しないって言うか。
できるだけ一人で完結できるようにことを考えて。

 

__

コーヒーにしても写真にしても、
ずっとブレずにやってるイメージがあるよ。

 

阪本

けっこう人に言われるけど、
ブレないっていうとかっこいいけど、
ブレない訳じゃなくて、それしかない。

 

__

いつも言うよね(笑)。

 

阪本

それしかないのよ(笑)。
だからコーヒーでもそうだし、趣味の写真でもそうだけど。
それしかできないっていう。
あれこれ、やってみようっていうこともあんまり思わない。

 

__

そこに対しての興味もそんなに?

 

阪本

ないんですよ。
だから、あれが流行ってるからやってみよう、
とかっていうのはあんまりなくて。
それより、これが美味しいな、と思うものがあったら、
それをきちんと出したいなっていう、
そっちのエゴの方が強いっていうか。

 

__

もっと極めたい。

 

阪本

うん。
だから「これでいい」
って思ってもらいたいっていうかね。

 

 

__

写真は最近、個展とかしたりしてるの?

 

阪本

最近ちょっとお休み中だけど、
またぼちぼちやって行こうかなって。
グループ展とかには参加したりとかはありますけど。

 

__

写真も長いんだっけ?

 

阪本

お店と同じぐらい長いんですけど、
白黒の写真で、今のスタイルっていうのは15年ぐらい。

 

__

お店と共に。

 

阪本

お店と共に、ですね。
だから、この店自体が自分の書斎みたいなもんで、
好きな物置いて、好きなものに囲まれて、みたいな。

 

__

城だね。
マティの居場所っていうか。

 

阪本

うん。
だから自宅に何もないんですよ。
もう帰って寝るだけだから。
もうここで全部済ませちゃうっていうか、お腹空いたら作ってとか。

 

__

いいよね。
自分の居場所や、
自分にとって快適な空間があるって。

 

阪本

うん。
それぐらい、地元にべったり根付いているというか。

 

__

今、このエリアは過渡期だけど。

 

阪本

これからどうなるかもまだわかんないですもんね。

 

__

母校の内山下小学校や、石山公園とか、
そういう場所に対して、
マティなりに、こうなったらいいのにとかある?

 

阪本

最初に聞いたのは、
市民会館が動いたあと、後楽園も近いし
烏城公園から地続きな感じで、あの辺り一帯を史跡公園にして、
観光ができるような、
昔からあるものをそのまんま生かせる公園にしよう、
みたいな計画があるというのを聞いたのは、もう何年も前だけど。
内山下小学校の建物自体にそこまで思い入れがあるかっていうと、
まあ、残っては欲しいけど、
今、実際に小学校でもないんだったら、
建物を潰すなりなんなりしてでも、
イベントがある時だけではなく人が集まれて、
普段からちょっと行ってみようみたいに思えるような、
そういう場所になってくれたらいいなとは思う。
あのひょうたん池とか、記念碑とか、残すものは残して。
もうなかなか入ることもないけど、
久しぶりに入れるような、オープンな場所になるんであれば。
50、60になっても、散歩がてら行って、
あぁ懐かしいなぁ、
と思えるような場所であったらいいなとは思います。
名残りというかね。
ここに小学校があったっていうのが、若い人たちに言えるような。
建物の活用を通じて
あの場所を見てもらうっていうことの値打ちはあるけれど、
そこにしがみつくんじゃなくて、新しいものを。

 

__

街なかに、あれだけ広いスペースがあってね。
地域にとって、有効活用できる場所になるといいよね。

 

阪本

木もたくさん茂ってるし、
石垣を上がっていったら西の丸があってとか。

 

__

西手櫓とかって今、ちょっと残念な感じだからね。
もうちょっと、丁寧に扱ってあげるといいと思うよね。

 

阪本

岡山城から図書館があって、
お堀があって、
林原美術館から石垣があって、
RSKがあて。
あの辺をガーッと、歩けるようなところにして。
あの辺全体を、全部公園にできるなら、
逆にやりきったら面白いかもしれないよね。
元々はだって、城の敷地でしょ。

 

__

石山公園は、烏城公園の一部だからね。

 

阪本

それで、旭川があって、橋を渡ったら後楽園があって。
せっかくのそういうエリアだから、
ある程度更地にできるんだったら、
がっつり地続きな公園になったら。

 

__

思い切って。

 

阪本

河川敷でお花見して、
歩いてるうちにこの辺まで来ちゃったみたいな。

 

__

散歩の範囲が、気がつけばここまで、みたいな。

 

阪本

あそこも行ってみようみたいな。
烏城にしても、後楽園にしても、
久しぶりに行くとやっぱりいいもん。

 

__

そうよね。

 

阪本

岡山の人って、なかなかわざわざ行かないけど、
俺ら地元だから。
毎日、城を遠くに見ながら行き来して。

 

__

贅沢よね。
たまに、ふと、しみじみ感じたりする。

 

阪本

贅沢ですよ。

 

__

たまには、岡山城や後楽園に行くことある?

 

阪本

たまに行きますよ。
去年も夏ぐらいに烏城に行ったり。
後楽園もちょっと行ったりとか。

 

__

今、後楽園も岡山城も幻想庭園や灯源郷をやって、
頑張ってるもんね。

 

 

__

マティ自身は、
暮らしや仕事のこととか
これからどんな風になっていたいと思ってる?

 

阪本

この先、どのくらいここで続けられるか分からないけど、
僕自身はずっと変わらないな、って言われたい。
もちろん歳はとってるんだけど、
例えば県外に出た人が久しぶりに岡山に帰ってきて、
ふらっと久しぶりに来てくれた時に、
「まだやってるんだ」みたいな、
そういう場所にしたいなとは思う。
そういうのが地元の人間の役割と言うか、
迎え入れる場所というか、
おかえりって言ってあげられるような。
やっぱりなんだかんだ地元が好きっていうのがあるから。
ただやっぱりみんなが地元にいるわけではないから。

 

__

出たり入ったり。

 

阪本

うん。
だけど、休みに帰ってくる人とかが来てくれたり、
そういう時に、あ、帰ってきたなって思えるような、
そんな場所としてあり続けたいなっていう。

 

__

じゃあ、続けられる限りは。

 

阪本

もちろん。
どこまでできるか、っていうのはあるけど、
今のスタイルのまんまで、ずっと走っていけたらいいなって。

 

__

積み重ねていく感じ。

 

阪本

それで、だんだん歳もとっていくし。
お客さんも歳とっていって、
あの頃若かったなーって、一緒に振り返ったりできたらいいなって。
なかなかないって思うんですよね。
常連さんとかと一緒に歳をとっていくお店っていうのも。
いろんなカフェありますけど、
若い人向けの店だったりとか、大体年齢層が決まってるから、
歳とるとちょっと行きにくくなったりとか。
でもここは、元々のスタートから90歳ぐらいの建物だから。

 

__

そっか。

 

阪本

だから、90歳の人も来れるし、10代も来れる。
そういうところからスタートしてるんで。

 

__

懐が深い感じだよね、店自体が。

 

阪本

うん。
自分も20代後半で初めて、今16年経ったから、
20代から、30代、40代と歳をとってきて。
お客さんも同じぐらいの世代の人とか、
ちょっと上の人とかが、
そうやって16年、歳とってるわけだから。
一緒に歳をとって、
未だに行ける店っていうのが一個ぐらいあってもいいのかなって。

 

__

街にはいろんなお店がある中で、
ラヴィアンみたいな個性のお店もあって、
っていうのが、街の一つの特徴にもなっていく。

 

阪本

他の店にはない、建物や空間の魅力っていうのはあると思うし。
禁酒会館は観光地でもないし公共の場所でもないけど、
岡山に行ったついでにちょっと寄って、
みたいな場所になったら。
なんだか気になるわ、みたいな。
たぶんずっとそういう建物であり続けるだろうと思うから、
そこに身を置く以上はそういう風にずっとあり続けたいかな。

 

__

最初に、ここに自分以外の人が立っているのは嫌だと思った、
それが未だに続いてる感じ?

 

阪本

そう。
全うしたいって感じ。

 

__

変わらず。

 

阪本

変わらず。

 

__

そうやって変わらずにいられるって、何だろうね。

 

阪本

なんだろう?
でもそれってやっぱり、それしかないからよ、俺は。
いろいろやるタイプじゃないし、
ひとつのことをずっとやり続けることでしか表せない、
みたいなところはあるから。

 

__

でもそれが、自分には一番合ってる。

 

阪本

それが一番気持ちいいと言うか、
それに反応してくれる人がいれば、よかったって思う。

 

__

早い段階で、自分のスタイルと言うか、
居心地のいい場所とかやり方に気づいて。

 

阪本

そうですね。
16年前には、それが頭の中にイメージとしてあって。

 

__

ひょっとしたらそれって、すごいことかもしれんよね。
いろんな人がいて、
ずっと探している人もいるかもしれないし、
もっと早い時から見つけている人もいるかもしれないし、
色々いるだろうけど。
これしかできんってマティは言うけど、
逆にその、
見つけたものをずっと続けられる強さみたいなものが
個性であり、魅力につながるんじゃないかなとも思う。

 

阪本

ここは自分の好きな空間にしようというのは最初にあって。
仕事場なんだけど、ずっと居たい場所みたいな。

 

__

遊び場?

 

阪本

大きな意味では、遊び場。
何をするのもここで、みたいな。
最初にそれを思って、未だにそういう場所である。
仕事とプライベートを切り離して
完全に仕事の場所として割り切っている人ももちろんいるけど、
俺は切り離せないというか。
ずっと地続きであって。
だから自宅の方がどちらかというと、アウェイな感じ(笑)。
自分ちに帰るんだけど、
帰ってお風呂入って寝たら、すぐ次の日が来て、
すぐここに来て。
ここにいる時間の方が長い。

 

__

じゃあ、お店の営業が終わっても、結構長いこと居る?

 

阪本

長いこと居ますね。
仕込みもあるし、片付けとかも一人なんで、
だらだらやりながらしてたら。
だから、早く家に帰って何かしようとかいうのは、あんまりない。
音楽聴きたいなら、ここで聴けばいいし、みたいな。

 

__

本当に、場所と密着してる。
「The 地元」って感じだね。

 

阪本

多分、あの岡山城の石垣を、
この辺りのエリアの人の中では、俺が一番見てると思う(笑)。

 

__

そうよな(笑)。

 

阪本

ずっと。
この石垣を見てる時間は、多分俺が一番長い(笑)。
カウンター越しにお客さんを見ると、どうしても目に入るから。
石垣を見させたら俺にかなうものはない(笑)。

 

__

確かに(笑)。
トータルの時間で俺が一番長いぞ(笑)。

 

 

阪本

でも、このエリアが楽しい場所になったらいいなと思う。
ブームで一時盛り上がるとかじゃなくて、
小さいけど、長く地元を支えるお店がずっとある。
そういう人たちが地元をずっと支えて。

 

__

そういう懐の深さはある気がするもんね、このエリアは。

 

阪本

これだけ恵まれた場所にあるからね。
いい場所よね。

 

__

この場所好き?

 

阪本

好きです。
地元に残ってる後輩連中も、
やっぱり地元が好きなはず。
ここで商売したりとか多いけど、
腕があってもずっとそこにいて店をやってとか、
そこで仕事をしてとか、会社起こしてとか。
そういうのを見ると、
やっぱりみんな地元好きなのかなって思う。
そういうところがやっぱり丸中(丸の内中学校)の連中は、
なんかあるんじゃないですかね。

 

__

いいね。

 

阪本

うん。
あんまり普段意識してるわけじゃないけど、
ずっとここにいるなていうのは、感じるし、
ずっといたいなって思う。

 

__

60、70になっても、まだやってるなっていうのが理想?

 

阪本

それが理想ですね。

 

__

白髪になっても、マティ、まだやっとんじゃ。
まだコーヒー入れて、写真撮っとんじゃ、
みたいなね。

 

阪本

そうそう。

 

__

いいね。

 

阪本

写真の先輩でも80近い人が未だに元気で、
うちにも週一ぐらいで来てくれるけど。
で、可愛がってもらってて。
その人とかを見ると、俺45だから、
あとまだ30年とかあるかと思ったら、えぇって(笑)。

 

__

え、それどっち(笑)。

 

阪本

あんなに元気でおれるかなって(笑)。
でも、先輩方がそれだけ元気でやってるっていうことは、
まだまだ頑張らんと。

 

__

まだまだ若造、か。

 

阪本

まだまだ若造ですよ。
それはコーヒーの世界にしても、まだまだ若造だし。

 

__

いろんな世代の人が、
いろんな時代にあったやり方でやって、
それを包み込めるのが地元の良さなのかもね。

 

阪本

地元の人間が盛り上げないと、っていう気持ちがあるけど、
イベントに頼るとかじゃなくって、
この場所に居続けることというか、安心感みたいなもの。
木の根っこみたいな。

 

__

それぞれの人の得意なことで、やり方で、スタンスで。
そういうのが街の多様性だろうし、良さでもあるだろうし。
色々ある、っていうのがいいのかもしれないね。

 

 

 

阪本 雅人(さかもと まさと)

 

珈琲屋ラヴィアンカフヱ

岡山市北区丸の内1丁目1-15
086-227-2237
営業時間 11:0019:00
休業日 毎週月曜日
ウェブサイト ▷ 珈琲屋ラヴィアンカフヱ

 

 

 

インタビュー・写真
石井 範子(ENNOVA OKAYAMA)