ブレないシンプルさと
気負わずナチュラルな
ここで生きていく覚悟

009 「 写真家 加藤晋平 & ぜろどーなつ 加藤奈津子 」

2019年3月7日

 

2011年の東日本大震災から、もうすぐ8年。
写真家である加藤晋平さんと
「ぜろどーなつ」を営む奈津子さんご夫妻は
日々起こる様々な出来事を
真剣に、そして 絶妙なバランス感覚で軽やかに受け入れながら
潔く、シンプルな生き方を楽しむ達人のようなおふたり。
「移住者」から「定住者」へと変化してきた今現在
あらためて考える震災のこと、こどもたちのこと、仕事のこと
それらを包みこむ地域や人とのかかわりのことなどについて
お話を伺いました。

 

 

_________________________________________________________

 

 

__

おふたりは岡山に移住して来られてから、
沢山取材も受けられてると伺いましたが。

 

奈津子

そうですね。
断ることは、ほとんどないので(笑)。

 

__

移住して来られた岡山での暮らし、みたいなことを聞かれることが多かったですか?

 

晋平

結構、そういうのが多かったですね。
最近は落ち着いてきて。

 

奈津子

7年目になったからね。

 

晋平

最近は、ドーナツ屋として取り上げていただくことの方が多いですかね。
前は、「移住者」として取り上げていただくことの方が多かったですけど。
移住してきて、今、どんな暮らしをしてるかとか。
それを、動画で見せたり。

 

奈津子

動画、すごい出てたもんね(笑)。

 

晋平

すごい出てた(笑)。
岡山市の「移住・定住支援室」に、
そこの特設WEBサイトがあって、
そこでいろいろお世話になって。
「移住者」枠で。

 

__

今は、そういうのもひと通り落ち着いた感じで。

 

晋平

ひと通り落ち着きましたね。
今は、「定住者」として(笑)。

 

__

「移住者」から「定住者」に(笑)。

 

晋平

定住してます(笑)。

 

__

そうですよね。
2011年からだから…。

 

晋平

もうすぐ、8年ですね。

 

__

あっという間でした?

 

晋平

あっという間ですよ。

 

奈津子

早いですよね。
子育てしながら、というのもあるので。
こどもがいると根付きやすい、っていうのは、やっぱりありますね。
学校だったり、幼稚園だったりとか。

 

__

関わる場所も増える感じですよね。

 

奈津子

そうなんですよ。
母親同士のつながりだとか。
ポンっ、とこっちに来たとしても、
すぐにコミット出来るっていう利点がちょうどあった時期だったので。
そこを考えて来たわけではなかったんですけど、結果として。
ちょうど子育ての時期だったから、溶け込みやすかったな、っていうのはあります。
実感として。

 

__

おふたりは、岡山にゆかりはあったんですか?

 

晋平

ゆかりは、特にない(笑)。

 

__

あ、そうなんですね(笑)。
何が決め手だったんですか?

 

晋平

なんでしょうねぇ(笑)。
まぁ、場所の利便性が、結構、理由としては大きかったんですけど。

 

__

それは、お仕事の関係で、行ったり来たりしやすい所、っていうことが。

 

晋平

そうですね。
最初は、妻とこども達だけ行って、僕は東京に残ってて。
迷ってたんで。
まぁ、往復出来る距離なんで。

 

__

そうか。
往復出来る距離だからこその、迷い。
家族みんなで行っちゃって、大丈夫なものなのか、って。

 

晋平

大丈夫なのかな、って。
知らない土地で。
まったく状況が分からないんで。

 

奈津子

でも、移住する数年前に、出張で岡山に来たことがあって。
出石町界隈に初めて行って。

 

晋平

あ、そうそう。

 

奈津子

それが、すごい良かった、っていう話をしていて。

 

 

晋平

昔一緒の会社で働いてた友達の古い知り合いが岡山に居て、
僕が出張で岡山に来た時に、たまたまその友達も岡山に帰省して来ていて、
それで一緒に城下界隈とかをぐるっと歩いて。
その時の岡山の印象がすごい良かったので。

 

__

第一印象って、大きいですね。

 

晋平

第一印象、大きいですね、やっぱり。

 

奈津子

お土産に、なんだっけアレ…。

 

晋平

あ、富士商店の(笑)。

 

奈津子

お土産を買ってきてくれて(笑)。

 

__

いいですよね、富士商店(笑)。

 

晋平

もう、9年とか、10年前とかの話ですから。
東京でも、あんなお店って、その頃はまだなかったから。
今はね、そういうお店も増えましたけど。
当時は結構、珍しかったですよね。
だから、面白いまちだな、と思って。

 

奈津子

だから私も、場所すら分からないような所だったんですけど、
「良かった」っていう印象を先に聞いてたので。
それで、その後に「どこに行く?」ってなった時に、
印象の良かった岡山っていうのがね。

 

__

候補の中で、上位にあったんですね。
いくつか、候補は他にもあったんですか?

 

晋平

ありました、色々。
基本、自分が行ったことがある場所で探してたんですけど。
福岡とか、京都とか、神戸とか、熊本とか。
出張で色々行くので、まちの様子は知ってるし。
沖縄とかも、一応考えたりもしましたけど。
その中で、まぁ、とりあえず岡山が。
「とりあえず」じゃなくなったけど(笑)。

 

奈津子

私最初、免許は持ってるんですけど、運転が出来なかったんですね。
それで、こっちに来た時に自転車を持ってきてくれたんですけど、
こどもを乗せて自転車で動くって、電動じゃないので、相当大変なんですよ。
でも、結構フラットな道が多くて。
まちもコンパクトにギュッとまとまってて、公園もいくつかある、っていうことで。
自転車で子育てをするのとか、まちの中ですごくやりやすい、っていうのも、
かなり、私の中でありがたくて。

 

__

「岡山って、道幅広いね」って、
県外の人から言われたりすることが、たまにありますね。

 

奈津子

ちゃんと自転車が通る道もあって。
東京にいた時って、そういうのがなかったんですよ。

 

__

東京は、路地っぽい狭い道が多いですもんね。

 

奈津子

パッと飛び出して来られたりしても危ないし。
ちゃんと自転車道路があって、フラット。
高低差があまりない、っていうのは、自転車族には…(笑)。

 

__

自転車族(笑)。

 

奈津子

そうそう(笑)。
そういうのが、すごくありがたくて。
「ここなら、子育て出来るかもしれない」と、最初に感じたんですよね。
ちょうどこどもが「イヤイヤ期」の大変な時で。
もう、とにかく、ひとつでも不安要素を減らしたい、っていう時期だったので。
その中で、移動が楽であるとか、どこかに行けば、こどもが遊ぶ場所があるとか。
そういう、日常生活の中に、暮らしやすさっていうのがある。
私は東京にしか住んだことがないので、比べる要素が、あまり他にないんですけど。
すごく「あ、楽しいな」って、最初に(笑)。

 

__

新鮮な感じ?

 

奈津子

はい。
地方で暮らす、っていうことを考えたことがなかったけど、
暮らしてみたら、すごく暮らしやすいし、こどもも、イキイキとした感じでいるので。
当時、それが印象的でしたね。
今もその印象は、ずっと変わらないんですけど。

 

 

__

東日本の震災があって、
こどもさんがいるから、移住した方がいいんじゃないか、っていうことを、より強く感じたんですか?

 

奈津子

そうですね。
多分、こどもがいなかったら、移住はしなかったと思うんですよ。
移り住むって大変なことだし、仕事もあるしね。
家のこともあるし。

 

__

そうですよね。
大きな決断。

 

晋平

そうですね。

 

__

じゃあ、ちょっと岡山に住んでみて、様子見て、
別の所に移動する選択肢も残しつつ、みたいな。

 

晋平

その考えはありました。
たまたま最初に、部屋を貸してくれる人が現れて。
そこで、お試し期間、みたいな感じもあったので。
その2ヶ月間くらいの間に、割と様子が知れたというか。
それが大きかったですね。

 

__

今ね、(綿引)光子さんも一緒に「ぜろどーなつ」をされてますけど、
光子さんと知り合ったのは、割と早かったんですか?

 

奈津子

光子さんが、初めて会った移住者で、
うちは、娘と息子がいるんですけど、
小学校5年生と2年生で、どっちも同じ年齢なので、こども達がまず仲良くなって。

 

__

そっちが先だったんですね。

 

奈津子

そうです。
それで、こどもが遊ぶ場所で会って。

 

__

そういうきっかけも、結構大きいですね。

 

奈津子

ね。
岡山に、そんなに沢山移住して来ている人がいるって、知らなかったので。

 

晋平

まだ、いなかったもんね。

 

奈津子

そう。
ものすごく早かったので。

 

__

結構、すぐだったんですか。

 

晋平

もう、一ヶ月半くらいには。

 

奈津子

5月。

 

__

ほんと、早いですね。
決断も行動も。

 

奈津子

それで、こっちに来てすぐに、綿引家に会えて。
娘たちも、友達が出来たから…。

 

__

安心、みたいな。

 

奈津子

そうそう。
同じような境遇の人がいる、っていうことが。

 

__

心強いですよね。

 

奈津子

夫も、まだ来るかどうか決まってない時だったんで。
車もないし、移動手段もないし、っていう時に、綿引家が力を貸してくれて。

 

__

そうだったんですね。
そういう出会いがあって。

 

奈津子

それもあって、岡山いいね、って。
綿引家との出会いがなかったら、ここまでは。

 

__

そういうことが、大きな力になりますよね。

 

晋平

うん。

 

奈津子

そう思います。

 

 

__

「ぜろどーなつ」は、何年前にスタートしたんですか?

 

奈津子

えっと、6年前ですね。

 

__

はじめたきっかけは?

 

奈津子

うちも綿引家もそうですけど、
原発事故があって、こどものことがあったから移住して来たんですけど、
放射能のことを気にしてこっちに来たので、
食べ物も、何を食べるかっていうことを、こちらに来てからも気にしていて。

 

__

どこで、何を買ったらいいかとか。

 

奈津子

そうそうそうそう。
せっかく来たのに、ここでまたこどもを守れなかったら、っていう気持ちも強かったので。
でもなかなか、岡山の地元の方と、そういう話をしづらいな、っていうのがあって。

 

__

いきなり「実は…」って(笑)。

 

奈津子

そうそう、そうなんですよ(笑)。

 

__

言いにくいですよね、たしかに。
「あ、あぁ…」って、気まずくなるのもね。
そうだよなぁ。

 

奈津子

ちょっと重い話でもあるからね(笑)。
そういうところもあって。
でも本当に、自分が来た理由っていうのはそこなので。
そこを、包み隠す必要もない。
それで、どうやったら普通に話せるかな、って考えた時に、
飲み物とか食べ物とかがあると、
フランクに話せる部分ってあったりするな、っていうところで。
こどものことがあって移住した、っていうことは、
自分の中で核としてあるので、
こどもが好きな食べ物っていうことで、「ドーナツ」(笑)。
ちょっと安直ではあるんですけど。
丸(◯)の形って、なんかこう、
穴が空いてるだけで、こどもってグッとくる、っていうのがあるみたいで(笑)。

 

__

無敵感がありますよね、あの形には(笑)。
あと、なんだろう、癒される感じ(笑)。

 

奈津子

ただの丸(◯)じゃないんですよね、ドーナツって(笑)。
それで、放射能だったりとか、娘がその当時、アトピーだったりもしたので、
添加物とかも影響してるな、って、その当時は感じていたので。
そういうものは、こどもはなるべく食べない方がいいよな、
って思っていたところもあって。
そういうことも、どうやって話したらいいんだろう、って(笑)。

 

__

うんうん。
悩ましい。

 

奈津子

そういうのも、考えあぐねていたところでもあったので。
それも含めて、なるべく「ゼロ(0)」に近いものがいいな、っていうことで、
名前が「ぜろどーなつ」になったんですけど。
その「ゼロ(0)」っていう形と、ドーナツの形が似てるな、っていうところがあって。
それで、ゼロからドーナツ屋を始めようかな、って。
ここで、この場で生きる、この場で生活して、
この土地で人とコミットする方法として、まずは考えたんですね。

 

__

その手段として、食べたり飲んだり、みたいな切り口から。

 

奈津子

そうそう。
楽しく会話をしながら。

 

__

コミュニケーションツールとしての役割にも使えますもんね。
じゃあ、素材とかも一から、どういうものが良いかとかを考えて。

 

奈津子

一からですね。
その、ゼロベースで始めた、っていうところもあって。
東京から移住して、ゼロから始めたよ、っていうところも。

 

 

__

色々な思いが重なってるわけですね。
6年前に始めて、今、学童のおやつも作られてて。
学童は、お声がかかって始めることになったんですか?

 

奈津子

それは、私がやりたかったんですよね、最初。
マーケットだったり、マルシェだったり色んな所に出店させていただいていて。
それで、実際にドーナツがこどもに食べてもらえてるのかな、っていうのが、
実感として分からない部分がありまして。
コンセプトとしては、
「こどもに安全な食べものを」っていうところで始めたんですけど、
実際どうなんだろうな、っていうのを考えた時に、
もちろん、こども以外にも食べていただけるのはすごくありがたいんですけど…。

 

__

最初のスタートが「こどもに」っていうところですもんね。

 

奈津子

そうなんですよね。
だったら、直接届けられないかな、というところで。
うちのこども達も学校に入って、おやつを学童でもいただく、
っていうタイミングでもあったので。

 

__

普段、学童ではどんなおやつが出るんですか?

 

奈津子

色んな学童があるんですけど、学童の支援員の方も、すごく忙しいので、
おやつに何を出すか、っていう基準はないので、学童によってバラバラ。

 

__

それぞれの学童の方々の裁量、みたいな感じなんですね。

 

奈津子

そうなんですよ。

 

晋平

ハッピーターンとかもある(笑)。

 

__

へぇー(笑)。
そっか。
こどもが好きそうなおやつをね。

 

晋平

そういう感じ(笑)。

 

奈津子

そういうのが多いですね(笑)。
そうじゃないところもありますけど。

 

__

こどもも好きだし、取り分けやすいし、美味しいし、時間ないし、って感じなのかな(笑)。

 

奈津子

みんな、ワーって取るので、なかなかそこで、最中があったりとかね(笑)。
衛生上の問題とかあって、なかなか難しかったりして。

 

晋平

僕らのこどもの頃もね、
おやつといえば、普通にそういうものを食べてたし。

 

奈津子

そうそう。
この最中とかも、学童でも出させていただいてるんですけど。

 

(ぜろどーなつの美味しい最中とコーヒーをいただきながら、インタビューをさせていただいています)

 

__

これ(最中)とっても美味しいです。
ハッピーターンは私も大好きなんですけど、
そういうのとは違う、奈津子さんが、そもそもやりたかったことが、
よりダイレクトにこども達に届けられる手段、
みたいな感じなんですね、学童は。
直接食べてもらえるというか。

 

奈津子

そうなんですよね。
毎日毎日食べるものであって。
給食っていうのはね、こども達が全員小学校で食べるから、
結構注目されてたりする部分はあるんですけど、
学童って、働いてるお母さんのこどもが行くところだったりして、
お母さんって、すごく忙しいっていうのが前提にあるから、
なかなか、手づくりのおやつを出す、っていう時間もなくて難しい、
っていうのも、私もよく分かるので。
それでもやっぱり、自分も、母親が手作りしてくれたおやつは、
すごい嬉しかった、っていう記憶があって。
それがね、添加物がどうのとか関係ないんです、こどもにとっては(笑)。
美味しければいいんですよね。

 

__

それが、お母さんの手作り、ってなったら、尚更うれしい、っていう。

 

奈津子

それに近いようなおやつ、っていうものが出せたら。
自分の中では、そういう気持ちを込めて作ってるんです。
相手に伝わってるかどうかは分からないけど(笑)。

 

__

そういう思いとか考えを、学童の方にお伝えして。

 

奈津子

そうです。
そしたらちょうど、学童のこどもの人数がすごく増えて、
以前は手作りのおやつも作ってたんだけど、でも、もう、手が足りなくて。
とてもじゃないけど出来ない、っていうタイミングだったから、
すごいありがたい、って、そこの学童では言っていただいて。
そこから始まったような状態で。
それで、紹介していただいたりとかで、
今では岡山市で6ヶ所とか、7ヶ所とかにお届させていただいてて。
毎日じゃないんですけど。

 

__

少しずつ、届けたい思いが広がっていってるんですね。
こども達も、楽しみだろうな。

 

奈津子

楽しみにしてくれてると、嬉しいんですけど(笑)。

 

 

__

こどもたちに届いている実感は、いかがですか?

 

奈津子

ここで店頭販売をしてる時に、
学童で食べてます、ってお子さんが来てくださったりとか、
先週のおやつが美味しかったよ、とか。
私が配達に行ってるので、学校帰りのこども達に会ったりすると、
この前のが美味しかったから、また作ってね、とか(笑)。

 

__

嬉しい。
ドーナツのお店の人だ、みたいな感じで(笑)。

 

奈津子

そうそう(笑)。
そうやって言ってくれたりすると、こども達に直接届けているので、
声が聞けるっていうことは、すごい嬉しいですね。

 

__

やりたかったことが、ひとつ叶ってるわけですもんね。
実感できるって、嬉しいですね。
やり甲斐というか、やってる意味を感じられて。

 

奈津子

あ、本当にこどもが食べてくれてるな、って。
良かったな、って。

 

__

本当ですね。
先日、デビッドさんと光子さんにインタビューさせていただいた時に、
(末娘の)アキラちゃんが、大きくなったらぜろどーなつになりたいって言ってる、
っていうのを伺って(笑)。

 

奈津子

そうなんですよ(笑)。
ありがたいことに。

 

晋平

もう、全然譲ります(笑)。

 

__

加藤家のふたりは、継ぐ気は(笑)。

 

奈津子

もう、2代目はアッちゃんでね(笑)。
まぁ、うちの娘も、アキラちゃんと一緒にやりたい、っていう話をしてたよね。
こども達の代まで続けば(笑)。

 

__

カメラマンか、ドーナツ屋さんか(笑)。

 

奈津子

息子はカメラマンで(笑)。

 

__

晋平さんは、普段写真のお仕事をされてるので、
僕も撮りたいとか、私もやってみたいとかって、
お子さんが自分で撮ってみることとかはあるんですか?

 

晋平

ないですね(笑)。

 

奈津子

前に、ちょっとだけあったけどね。

 

晋平

一瞬でしたね。
あまりにも、あるので。
その辺にカメラが転がってるし、僕が撮ってるしで。

 

奈津子

生まれた時から、ずっとカメラで撮られて、っていうことが日常なので。

 

__

じゃあ、他のおうちとは、
写真に対しての距離感が、かなり違うかもしれないですね。

 

晋平

うん。

 

奈津子

そう思いますね。
私の幼少期とかと比べて考えたら、
みんなで写真を撮ることって特別だったんですけど、
常に撮られてますからね。

 

__

おはよう、パシャ、くらいな感じですか?

 

晋平

そんなには撮らないです(笑)。
けどまぁ、日常的には撮ってるんで。
だから、そこに特別興味を抱く、っていうことが、逆に無いのかもしれない。

 

__

もう、歯磨きくらい当たり前のスタンスなんですね。

 

奈津子

そうですね。
もう、素ですよね。

 

晋平

何にも気にしてない。

 

 

__

晋平さんのホームページを見させていただくと、
文章は無くて、写真だけですよね。
あのシンプルな感じが、いいなと思って。
あれは、あえて、写真のみにしてるんですか?

 

晋平

あ、そうですね。

 

__

ブログの家族写真とかも、本当、みなさん自然体ですもんね。

 

奈津子

私ですら、最近全く気にしない(笑)。
生まれてから撮られてるわけじゃないのに。

 

__

写真の道に進むきっかけは?

 

晋平

こどもの頃から、好きでしたけどね。
大学卒業してからですね。
一応、本格的に始めたのは。
とりあえず、好きだったんで、写真の学校に行って。
ちょっと、自分で撮りながら、勉強して、みたいなことをやってたんですけど。
そのうち、だんだんだんだん、狭まっていって、他のことが出来なくなっていった(笑)。
元々出来ないんですけど。
なんか、結果的に、やめられなくなっていった(笑)。

 

__

撮影する写真は、ジャンルは色々ですか?

 

晋平

仕事は、もう、色々ですね。
建築物とか、モノとかが多いんですけど。
あんまり人は得意じゃない。

 

__

意外。
家族写真を撮られてた印象が強いので…。

 

晋平

好きなんですけどね。
あんまり…、対ヒトよりも、対モノ、とかの方が…。

 

__

あ、そうなんですか(笑)。

 

晋平

動かない、喋らない、モノとかの方が…。

 

__

…あぁ、…なるほど(笑)。

 

晋平

…いいですね(笑)。

 

__

いいですか…(笑)。

 

奈津子

でも、ここでスタジオを始めてからは、
私もたまにお手伝いで入ったりするんですけど、
やりやすそうだな、と、側で見て勝手に思っていて。
場がある、っていうところが。
隣の本屋のおばあちゃんとか、
ご近所の方だったりとかが、毎週来てくださったりして、
話を聞けたり、話が出来たりとか。
ぜろどーなつだと、必ず火曜日には開いてる、っていうことで。
地域の方々と話す機会だったり、っていうのが、初めてですね。
そういう環境が出来た、っていうことが。

 

__

本当に、いよいよ、根を張る、っていうのが。

 

奈津子

そうそう(笑)。
そんなつもりも、正直、最初はなかったんですけど。
そもそも、ここを借りる前、っていうのが、
販売をするスペース、っていうのを探していたわけでもなくて、
工房だけを探していたんですよ。

 

晋平

仕事場兼、工房。

 

__

前に使われてたところよりも、もうちょっと使い勝手のいい所で。

 

晋平

そうですね。

 

奈津子

どっちかって言うと、広いスタジオがあって、物撮りが出来る場所。
しかも、まちなか、っていうところで探してたんですけど。
なかなか、なくて。

 

 

__

どの辺を候補として探されてたんですか?

 

奈津子

駅中心。

 

晋平

奉還町の方とかも。

 

奈津子

その辺も含めて、色々探してたんですけど。

 

__

この場所は、どうやって決めたんですか?

 

奈津子

実は、最初は、ここの向かいの建物見に来たら、
同じ大家さんで、ここも空いてるっていうことを教えてくれて。

 

晋平

裏に、もうひとつビルがあって、3軒同時に貸し出してて。

 

奈津子

何をしてもいい物件で。
ボロボロだった、っていうのもあるんですけど。
大家さんが、どういう風にしてもいいよ、って。
なかなか、そういう物件って無いですよね。

 

__

たしかに。
広さとしては、この位あればいいかな、って感じ?

 

晋平

僕にとっては、撮影するにはちょっと狭いので。
でも、まぁ、いいかな、って。
二階建てプラス、離れもあって。
スペースとしては、結構あって。

 

奈津子

借りた当初は、下の子もまだ幼稚園だったので、
目を離せないというところもあったので、
離れにこどものスペースを作って(笑)。

 

__

あ、こども部屋!

 

奈津子

こども部屋(笑)。
綿引家のアキラちゃんやマハちゃん、うちの子も含めて、
みんなで安全に遊ぶ場所も確保出来て、
親たちが、ちゃんとここで仕事が出来て、っていうスペースも持てたので、
それは、私にとってすごいありがたかった。
子育てしながら、安心して仕事が出来て、販売も、ありがたいことに出来て。

 

 

__

私、学生の頃は、割とこの通りを自転車で通ったりしてて。
今日は、ここに伺う前にこの辺りをキョロキョロしながら歩いて来たんですけど、
遠い記憶を辿りながらあらためてよくよく見たら、
隣の本屋さんとか、向かいのスエヒロさんとか、
角のかけつぎのお店とか、ケーキ屋さんとか、
その当時からあったと思うんですよね、ずっと。
懐かしくもあり、ちょっと不思議なエリアだな、ってあらためて感じて。

 

晋平

そうですか。

 

奈津子

地元の方も、そう思うんだ。

 

__

うん。
なかなか用事がないと立ち寄らないというか、
スーパーとかがあるわけでもないし。
自転車でバーって通り抜けちゃう感じ(笑)。

 

奈津子

そうなんですよ。
みんな早いですよ、ここを通る人(笑)。
通り過ぎる。

 

__

あ、やっぱり(笑)。
でも、青と黄色がグルグル回ってる看板の、昔ながらの床屋さんの隣に、
シュッとした感じのイマドキの美容室が並んでたりして、
観察すると、新旧が混在してて、なかなか味わい深いまちですよね(笑)。

 

晋平

まちの地味さが、結構いい(笑)。

 

奈津子

あはははは(笑)

 

__

うんうん(笑)。
絶妙な感じだなと思って(笑)。

 

晋平

こに来たのは2年前なんですけど、更にもうちょっと地味だった(笑)。

 

__

増えました、お店?

 

晋平

若干(笑)。
微増した感じ。
ルアンタイさんとかね。
隣も、ピザ屋さんなんですけど、そういうのも無くて。
本当に地味だったんですよ。

 

奈津子

裏のMUTTE(ミュッテ)さんも、すごく素敵なんですよ。

 

__

富田町、再発見しました(笑)。

 

奈津子

歩いてみないと分からなかったりしますよね。

 

__

やっぱりテリトリーみたいなのがあると思うんですよね、みなさん。
普段は決まったところを、グルグルしている感じで。
だから、地元だけど、なかなか立寄らない場所もあると思うし。
県外から来られた方たちの方が、ちゃんと調べたりされてるから、
案外、最近のまちのことはよくご存知だったりするので。
だから、この辺って、地元の人もまだまだ知らない、
未開の面白いところがあるような気がして。

 

奈津子

出石町の方って、ちゃんともう出来てますもんね。

 

__

ある程度、そうですね。
観光の人も通るし。

 

奈津子

こっち、観光の人、あんまり来ないんですよ。

 

__

でも、よく考えたら、このお店の前の道って、
「参道」って言ってもいい道なんですよね。
真っすぐ行けば、後楽園だし。
駅から繋がってて。

 

晋平

昔は多分、メインですよね。

 

奈津子

後楽園通り、って言ってますしね。

 

__

ですよね。
山陽道、ですもんね。

 

晋平

そうそう。
ここ、線路で途切れてますけど、このまま奉還町に繋がっていく通り。

 

 

__

そうですよね。
当時の名残もまちの所々に感じられるし、
昔はきっとメイン通りだったんですよね。
だけど、今はどちらかというとメインという感じではなくなったイメージなので、
この場所を選んだのはどんな理由だったのかな、
と思って伺ったんですけど、そういうご縁だったんですね。

 

晋平

たまたまですね。

 

奈津子

どうしても、このエリアがいいと思って、ということではなくて。

 

晋平

なんとなく、こう、僕ら的には、あんまり賑わってるところとか、
オシャレなところとかは、多分、違うな、っていう感じ。

 

__

でも、アクセスの良さは重要で。

 

晋平

良いところで、地味な(笑)。
そういうところでいい感じ。

 

__

じゃあ、ここ(富田町)で借りてみて、2年くらい過ごしてみて、どうですか?

 

晋平

すごい良かったですね。

 

奈津子

東京とかへの出張も多いので、ここからだとね。

 

晋平

歩いて駅まで。
10分くらいで、すぐ新幹線に乗れる、っていうのが。
利便性が(笑)。

 

__

晋平さん、出張が多いから、そこ大っきいですよね。

 

奈津子

アクセスがいいのは、すごい大っきい(笑)。
今まで自宅から行ってたので、
荷物を持って、タクシーに乗ってとか、津島からだから、まぁまぁ大変。

 

__

津島のおうちも、紹介というか。

 

晋平

あ、そうですね。
たまたま。

 

奈津子

考えてみると、住む場所とか、ここを借りる時とかも、
どうしてもこうしたい、と思って決めたわけではなくて、
ご縁をたまたまいただいて、っていう感じですね。

 

__

じゃあ、晋平さんだったら、お仕事、っていうのは、
やっぱり外せないから、とか、最低限の譲れないところ。

 

晋平

あ、そうですね。

 

__

奈津子さんも、
ぜろどーなつの、食材のこととか、こどもに届ける、みたいな、
最低限、ここだけは譲れない、みたいな中で、あとは…。

 

晋平

あとは適当で(笑)。

 

全員

あはははは(笑)。

 

晋平

本当に(笑)。

 

奈津子

流れ、流れて(笑)。

 

晋平

流れが来たら、乗る、っていう(笑)。

 

__

流れるプール方式(笑)。

 

奈津子

ありがたく乗る、っていうだけ(笑)。
タイミングに、どう乗れるかだけ。

 

 

__

ここの雰囲気もそうですし、
晋平さんの写真も、奈津子さんのドーナツもそうなんですけど、
勝手に私が感じたイメージが、
本当に必要な譲れないところは押さえつつ、
あとはもう、いかに不要なものをそぎ落としていくか、というか…。
おふたりには、そんなシンプルさがあるな、と。

 

晋平

なるほど。
的確ですね。

 

全員

あはははは(笑)。

 

__

あ、本当に(笑)。
合ってる?

 

晋平

そう言われると、そうだなって。

 

奈津子

今回、それでいきましょう(笑)。

 

__

あ、テーマ(笑)。

 

晋平

誰かに聞かれたら、そう答えよう(笑)。

 

奈津子

自分が発見したくらいに(笑)。

 

__

良かったら使ってください、どんどん(笑)。

 

晋平

そうか。
そうだ(笑)。

 

奈津子

良かった。
学びがあった(笑)。

 

__

恐縮です(笑)。
まぁ、ご夫婦だから、そういうところが似てくるのか、
もちろん、別々に、大事していることや、
それぞれの考え方があるだろうけど。
それこそ、震災みたいな、「どうしたらいいんだろう」っていうところで、
私には想像もつかないような、色んな決断とか選択をしながら、
この7、8年を過ごしてこられた中で、
そういう風になってきたのかな、って。

 

奈津子

ふたりとも、同じ、無印良品で働いていて…、元々ね…。
引き算でもモノを見る写真を撮ってる、っていうところは、あるじゃない(笑)。

 

晋平

そういうコンセプトに共感して、会社で働いていた、
というのが、 当時はあるんだと思います。

 

__

なるほど。
そういう経験も、今につながってるのかもしれないですね。
モノを撮るのと、人を撮ることの違いとか、
クライアントさんからの要望に応える時の難しさ、とかってありますか?

 

晋平

難しさはありますけど、僕にとっては、人を撮るよりは、モノの方が…。
ノリが悪いので(笑)。

 

__

晋平さんの?(笑)

 

晋平

ノリで撮るとかが出来ない…(笑)。

 

奈津子

盛り上げて撮るとか(笑)。

 

晋平

盛り上げて撮れない(笑)。

 

__

あぁ、なるほどね(笑)。

 

晋平

(テーブルの上のカップ指して)こういうモノだと、盛り上げなくてもいいじゃないですか。

 

__

たしかに(笑)。

 

晋平

勝手にずっと見ててもね、何も言わないじゃないですか。

 

__

いつまでも見てられますね。

 

晋平

語りかけなくても、何も…。

 

__

…そっか。

 

晋平

…えぇ。

 

__

晋平さん、面白い(笑)。

 

晋平

記事になりにくい(笑)。

 

 

__

以前、天神山文化プラザで家族写真の展示をされていたのを、
観に行かせていただいたことがあるんですけど。

 

晋平

ありがとうございます 。
あれは、2012年頃、移住して1年くらい経った頃で、
ちょっと思うところがあってやったんですけど。

 

__

移住して来られた方ばかりを撮られていたんでしたっけ。

 

晋平

そうですね。
ポートレートを撮って。
あれはでも、2年間くらいですかね、やったのは。
今はもう全然、やってなくて。

 

__

そうでしたか。
じゃあ、依頼があれば、そういう家族写真を撮ることもあったり、みたいな。

 

晋平

そうですね。
たまに、そういうのも、ありますね。

 

奈津子

夫の写真を今までも見てきて、
こういう風に撮ってもらいたい、っていうことであれば、喜んで撮りたいんだよね。

 

晋平

あぁ、そうそう。
人も、モノみたいに撮って良ければいいんですけど。
人もすごい好きなんで。

 

奈津子

こどもがニコっ、みたいな、そういうのを求められると、
そこは、もっとそれが上手なカメラマンにね。

 

晋平

カメラマン、いっぱいいるからね。

 

__

そうですよね。
それぞれみなさん、得意なジャンルがあるから。
だから、自然な感じで、そこにある家族の風景、みたいな感じで撮るのであれば。

 

晋平

あ、そうです。
そういうのは好きですね。

 

__

奈津子さんから見て、晋平さんの写真のこういうところが素敵、
みたいな魅力って、どんなところに感じたりしますか?
あらためて。

 

奈津子

魅力…、そうですねぇ…。

 

晋平

あり過ぎちゃって(笑)。

 

奈津子

難しさが、ちょっとは分かるから、
だから、見てて、すごい上手だな、って(笑)。

 

晋平

…これ、記事になったら、どう伝わるんだろう(笑)。
ジョウズダネ…(笑)。

 

奈津子

そうだよね(笑)。
活字にすると、ちょっとね。

 

__

たしかに(笑)。
臨場感が、うまく伝わればいいんだけど(笑)。
でも写真って、今の時代、
プロじゃなくても、誰でも簡単に撮れるので、
だからこそ、技術のある人が撮った美しい写真とかを見ると、
素直に「上手だな〜」とか「素敵」って、やっぱり思いますよね。

 

奈津子

機材がもちろん良いのは分かってるんですけど、
同じ機材で、同じ光で撮っても、やっぱり、撮れないんですよ。
本当に、目が違っていて。
カメラマンの人って。

 

__

うんうん。
カメラマンの人の目になってみたい、って、そういう事を思ったことありますね。
どう見て、これを切り取ってるんだろう、って。

 

奈津子

同じ空間にいたよな、っていうくらいに、見え方が違うんですよね。
やっぱり、日常生活でちゃんと見てないと、そこに落とし込めないというか。
そこをちゃんとね。
訓練する、っていう感じでやってないとは思うんですけど、
やっぱり、好きで見てないと、
写真を撮る、っていうモードになったとしても、それが出来ないと思うから。

 

__

晋平さんが普段、どの程度意識されているかは分からないですけど、
その、見る時の観点みたいなものが、晋平さんオリジナルのものがあるんでしょうね。

 

奈津子

たとえば、(部屋の片隅に並んで置いてある2脚のイスを指して)
あそこのイスをどう撮るかで、見え方が全然違ってくると思うんですけど。
モノを、ポンって置いた時に、私はあんな風に置けないんですけど、
何気なくポンって置き方が、もう、上手なんですよ。
無意識だと思うんですけど、置く場所とかも。
どうしたら、ちゃんときれいに置けて、
どうしたらきれいに見えるか、っていうのを考えて出来るから、
その結果、いい写真が撮れる、っていうのもあると思うんですよね。
それが、私は出来ない(笑)。

 

 

__

晋平さんはお仕事で、まちづくりのプロジェクトにもいくつか関わられてますよね。

 

晋平

昨年度まで、3年間くらい、
千葉県の北の方にある四街道市のまちの、
「シティセールスプロモーション」っていうのをやってて、
それの一環で、まちの人や風景の写真を撮って残していこう、
っていうプロジェクトに関わったりとか。
あとは、日本の古い焼物の産地があるんですけど、
文化庁の関係で、オリンピックに向けて、海外の人にも伝えていこう、
みたいなプロジェクトの写真を担当したりとか。
そういう、プロジェクト単位で、何年間かに渡ってやる、
っていうのもいくつかありますね。

 

__

晋平さんのホームページを見させていただいたら、
四街道のかな?
まちの人や風景が素敵だな、と思って。

 

晋平

四街道のですね。
千葉県のプロジェクトで。

 

__

岡山で、そういうプロジェクトに関わるお話があったりとかはします?
晋平さんの視点で、岡山のまちの風景を切り取ってもらったら、
ここ、こんな素敵な場所だった、って、
自分たちのまちの魅力を再発見できるかも、って思って。

 

奈津子

私も、岡山でやって欲しいって、すごく思ってて。
見たいです(笑)。

 

晋平

あれも、始める時に色々ディスカッションして、
最終的には県外とか、外の人にプロモーションするもんなんですけど、
やっぱり、そこに住んでる人が好きになって、
自分のまちにプライドを持つ、っていうのが、やっぱり先だよね。
それが、一番いいよね。
っていうところからスタートして、結局それが一番根底にあるんで。
だから、あんまり宣伝っぽくなくていいかな、って。

 

__

そうですね。
自分のまちにプライドを持つって、
地域や、人と関わっていくことだったり、
まちの魅力を伝えるときに、
すごく重要なキーワードだと思います。

先日、岩田由佳さんにインタビューをさせていただいて。
岩田さんのご主人と晋平さんが、「Studio Lights」でつながってたりして、
色んな方との出会いが、その次の出会いにつながっている感じですね。

 

晋平

岡山っていうまちの規模が、それを可能にしているというか。

 

__

コンパクト、っていう。

 

晋平

ええ。
良くも悪くも、すごく、人との距離感とかが近いので、つながりやすい。
それが、良さだなと。

 

__

東京だと、違いますか?

 

晋平

もう、全然違います。

 

奈津子

こんなにすぐに知り合わないし、誰かと誰かが知り合い、ってことに驚くよね。

 

晋平

相当レアなこと(笑)。
共通の知り合いがいる、とかってことが。

 

__

何が違うんだろう?

 

晋平

僕は、来て1年くらい経って感じたのは、
まちの人の密度感や、まちの規模感がちょうどいいんだろうな、って思いましたけどね。

 

__

まちを歩いてると、おーい、とか、あらぁ、って(笑)。
すごい知り合いに会う。

 

奈津子

そうそう(笑)。

 

晋平

まちですれ違って、多分気づいてると思うんですけど、
挨拶しない、っていう状況に、最初ちょっとびっくりして。
今は多分、自分もそうなってるんですけど。
人に会うのが当たり前すぎて(笑)。

 

__

なるほど(笑)。
あぁ、歩いとるわぁ、くらいな感じなのかな?

 

晋平

そうそう。
東京だと、まちを歩いてて偶然会うとかがそんなにないんで。
ちょっと離れてても、声をかける、って感じで。
なんなら携帯で「今、ここに!」って連絡して(笑)。
それくらいレアですね。
でも岡山だと、普通にこの辺あるけば、もう、絶対誰かに会うんで。
だから、わざわざ声かける、とかじゃないんだな、って。
後になって分かりました。
最初はちょっとびっくり、っていうか、「あれ、気づいてるよなぁ」って(笑)。

 

__

そっかぁ。
言われるまで気づかなかったけど、そういうところ…、あるかもなぁ(笑)。

 

奈津子

全員に声かけてたらね(笑)。

 

晋平

進まない(笑)。
目的地まで辿り着かない。

 

__

10分の道のりが、30分(笑)。

 

奈津子

お互いにそこは、これから予定があるんだな、っていうことでね。
目があったとしても、会釈するくらいで行ける、っていう。
暗黙の了解がありますよね。
挨拶はしますけどね。

 

 

__

東北の震災を機に岡山に来られて、
今は、移住者から定住者になって、もうすぐ10年ですよね。
先のことって、何が起こるか分からないから
あんまり先のことでなくてもいいんですけど、
だけど、ちょっと近い未来くらいで、
こんな風にいたいな、っていうことはありますか?

 

晋平

あぁ…、あるでしょ?

 

奈津子

ありますね。

 

__

おっ。

 

晋平

ふふふ(笑)。

 

奈津子

いいんですか、言って(笑)。

 

晋平

僕の意見じゃないから、どうぞ(笑)。

 

奈津子

家を建てたくて(笑)。

 

__

おぉ!

 

晋平

いよいよ、本格的に定住しようとしている(笑)。

 

奈津子

家建てたーい(笑)。

 

__

すごい。
もう、本腰入れて「住むぞ」っていう感じになってきてる。

 

奈津子

住みたい住みたい。
私、東京生まれで東京育ちなんですけど、もちろん実家も東京で。
でも、実家も、東京の家を売り払って、岡山に住みだしたんですよ、両親が。

 

__

移り住んで来られたの⁉︎
えー、すごい!

 

奈津子

去年の5月に。
兄も、岡山に移り住んで(笑)。

 

__

あらまっ!

 

晋平

その方がミラクル(笑)。

 

__

引力が(笑)。

 

晋平

お兄さんが、たまたま岡山の人と出会って、結婚して、
その人が岡山で美容室をやってるから動けない、
っていうんで、一緒にこっちに住み始めて。
たまたま、そういう感じで。
家族がみんな(笑)。

 

__

奈津子さんのご両親にしたら、
こどもたちが、何故かみんな岡山に行っちゃったから、我らも(笑)。

 

晋平

行かなきゃ(笑)。

 

奈津子

生まれた孫も、全員岡山だから(笑)。

 

__

そんなことあるんだ(笑)。
縁もゆかりもなかったのに。

 

晋平

縁とゆかりしかない(笑)。

 

奈津子

だから、東京に戻る理由が全くなくなって(笑)。
もう、お墓もあっちにないんですよ。

 

__

もう、岡山に住まない理由もなくなっちゃった(笑)。

 

奈津子

家族にも、岡山すごくいいよ、って言ってた経緯もあって、
それが響いたかどうかは分からないし、私が呼んだわけでもないんですけど。
結果として、気づいたら(笑)。

 

__

晋平さんは、おうち建てるの、どうですか(笑)。

 

晋平

それはそれで、いいかなぁ、と思ってますね。

 

__

そういう選択肢もありかな、って。

 

晋平

ありかな、って感じですね。
ドーナツ屋さんが儲かったらさぁ…。

 

奈津子

死ぬ気で働かないと(笑)。

 

__

おっ。
やる気ですね(笑)。

 

奈津子

住む気マンマン。
ていうか、もう住んでますけど(笑)。

 

__

より、深く。

 

奈津子

そうそう。

 

 

__

お子さんたちは、もう、岡山っ子ですもんね。

 

奈津子

もう、岡山弁ですね。
でも、私と話す時は、ちょっと標準語で話して、
お友達と話す時は、岡山弁で話したりとかって、ちょっとバイリンガルっぽい。

 

__

かっこいい(笑)。
そうですよね、おふたりが関東だから。

 

晋平

家の中は、関東弁なんで。
学校は岡山弁。
切り替わってるんでしょうね。

 

__

岡山弁、うつったりします?

 

奈津子

私、うつってます。
でも、ここで働いてる人は、みんな移住者で、
避難してきた方だけが働いているので。
旦那さんは、関東でお仕事されて、っていう、
母子で避難して来ている方も多くて。

 

__

じゃあ今、離れて住んでらっしゃるんですか?

 

奈津子

そう。
そうすると、家賃が二重にかかってくるとか、
新幹線の移動にかかったりとか、そういうこともあるので、
そういう方への職を作りたい、っていう思いもあって。
それで、避難して来た方に、なるべく働いてもらいたいところがあって。
今、そういう方に働いてもらってます。

 

__

ぜろどーなつのコンセプトが素晴らしい。
たしかに、会社勤めの方だと、
一緒に移住して来たくても、来られない方も、やっぱり沢山いらっしゃいますよね。

 

晋平

そうですね。

 

奈津子

そっちの方が、おそらく多いんですよね。
避難して来た方の写真を撮ってた当時、
8割くらいが、母子避難者だったんですよね。
今は少し、データも変わってると思うんですけど。
だから、家族で一緒に移住する、っていうことは、なかなか。
仕事を辞めて、っていうのは、やっぱり難しいので。
それでもやっぱり、こどものことを考えて来てる、っていう経緯があるので。

 

__

色んな境遇の方がいらっしゃるんですね。
ひとくちに「移住者」みたいな括り方になりがちだけど。

 

奈津子

そもそも、まだ、移住をしてる、っていう感覚が無い方もいらっしゃって。

 

__

現在進行形の悩みの中に…。

 

奈津子

今は、一時的なもので、避難中なんだ、と。
7年経ってますけどね。

 

__

その方それぞれ、流れる時間の早さが違うんでしょうね。
決断をするための時間が…。

 

奈津子

これから先が不安で見えない、って方がまだいらっしゃる状況。
なかなかね、移住してハッピー、みたいな感じの方がだけではない。
きっかけが、きっかけなだけに。

 

__

もちろん、そうですよね。
そういうのって、それぞれの方の事情はなかなか分からないですもんね。

 

奈津子

なかなか、語りにくい部分で。
さっきの放射能の話もそうなんですけど。
そういうことが、あることはある、っていう。

 

__

じゃあ、奈津子さんはおうち。
晋平さんは?
近未来の何か。

 

晋平

…もうちょっと大きいスタジオが欲しい(笑)

 

全員

あはははは(笑)。

 

__

じゃあ、また違う場所で新たにスタジオを持つ、っていうのも、あり得るかも?

 

奈津子

そう?

 

晋平

うん…。

 

__

自宅、兼、お店、兼、スタジオ、みたいなのもアリ?
家建てて引っ越しした先で、とか。

 

奈津子

あぁ、そうだよ。
大きいスタジオ兼。

 

晋平

うん。

 

奈津子

一緒じゃん、一緒じゃん(笑)。

 

__

あ、実はそうですね。
別々の夢かと思ったら(笑)。

 

奈津子

ね。
一緒。

 

晋平

一緒。

 

__

素敵。
なんだか、楽しみですね(笑)。

 

奈津子

それこそ、タイミングで生きているので、ね。

 

晋平

なんとなく思ってると、そうなっちゃってる。

 

奈津子

そうそうそう。
なるべく口にしていこうと思ってて。
今、思ってることとか。
そうすると、いいタイミングで、何かが来たり、来なかったり、するので(笑)。
逆らわずにいきたいな。

 

 

 

 

加藤 晋平(かとう しんぺい)
加藤 奈津子(かとう なつこ)

 

 

加藤晋平写真事務所
ウェブサイト ▷ Kato Shinpei Photo
連絡先 ▷ info@katoshinpei.net

 

ぜろどーなつ
HP ▷ ぜろどーなつ
連絡先 ▷ info@zerodoughnuts.com

※住所は共にこちら ▷ 岡山市北区富田町2-2-16 

 

 

「こどもおやつ食堂」について

 

こどもはもちろん、こどもを取り巻く大人や地域の人々が
ぜろどーなつのおやつを通じて
お腹が満たされることで心も少しほぐれるような
そんな機会や居場所を目指してスタートした
ぜろどーなつの新しいプロジェクト「こどもおやつ食堂」。
奈津子さんからの、心のこもったメッセージが届いています。
あなたにとって必要な場所なら
ぜひ一度行ってみて。

 

 

 

 

インタビュー・写真
石井 範子(ENNOVA OKAYAMA)