岡山カルチャーゾーンの魅力再発見!
OKAYAMA
CULTURE
SCOPE
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地域の人と共に、地域を見つめる、地域のための出版社
「株式会社 吉備人(きびと)」。
ソーシャルメディアが隆盛な時代にあっても
書店での思いがけない出会いにドキドキしたり
ページを一枚ずつめくり読み進めることでの読書体験でしか得られない感動が
本にはあるのではないかと思う。
ひとつひとつのまちの物語を丁寧にすくいあげながら
本をつくり、まちと関わってきた吉備人出版代表の山川隆之さんに
メディアとの関わり方や
伝えることの大切さ
本をつくることでつながるまちづくりへの想いを伺いました。
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__
吉備人出版は、創業されて何年ですか?
山川
23年経ったところなので、今、24年目です。
__
最初から、岡山で立ち上げられたんですか?
山川
そうです。
僕ずっとはそれまでは、
「リビングおかやま」というフリーペーパーの編集部にいて、
そこを辞めて、一緒に仕事をしていた仲間と3人で、吉備人出版を立ち上げて。
会社名は「吉備人(きびと)」というんですけど。
__
会社を立ち上げるきっかけは何かあったんですか?
山川
きっかけというほどのことはないけれど、
地元の、地域の本を作りたかったので、
自分たちで作ろうか、ということではじめました。
__
どういうジャンルの本が多いですか?
山川
別に、特にこだわっているわけじゃないんですけど、
地域出版が地方で本を出すとなると、
だいたい歴史関係のものをやるところが多いくて、
僕も先輩から、
「地域の歴史をちゃんと残せることが、地域出版の特色だ」
みたいなことを言われていたので、それは意識してた。
僕は特別、歴史のことをやろうと思って作ったわけではないんですけど。
__
一般の方が個人で出されることも多いんですか?
山川
多いですよ。
日本の出版業界って、7、8割は東京中心なんですよね。
出版社、印刷会社、製本会社は東京に集中していて。
だから、地方で本を作るって、なかなかハードルが高くって。
流通、いわゆる書店で販売しようと思うと、
一旦東京まで物を送って、
そこから地方に戻ってくるというルートを通るということもあって、
地方で出版物を作っても、なかなか全国的な流通には乗らないんですよ。
そういうこともあって、なかなか地方で出版っていうのはないんだけど。
でもまあ、いろんな都道府県で小さな出版社があって、
地元の人が書く本は地域の出版社が担っていかないと、
全員が全員、東京で本を出せるわけではないので。
僕らとしても、岡山で本を書きたい人のための受け皿として、
プロでもない作家でもない人たちに開かれた
地域の出版社を作ろうと思って。
__
出版業界自体が独特だったりするんですか?
山川
そうですね。独特ですよね。
__
本って、なかなか今売れないものですか?
山川
売れない、売れない。
__
吉備人さんで作られた本は、
主に一般の本屋さんで販売されていると思いますが、
それ以外の場所で扱われることもあるんですか?
山川
基本は書店が一番。
それから、本のジャンルによっては、
例えば、岡山城で岡山城下町の本を置いてもらったりとか。
そういう、絡んだ場所に、絡んだ本を、
というのはありますけどね。
基本的には書店。
それから最近ではやっぱり、
amazon などのインターネット書店の割合が高くなってきてますね。
__
吉備人さんもインターネットでの注文とかも多くなってますか?
山川
そうですね。
直接も受けてるし、amazon とか楽天とか、
そういうところを通じてもね。
逆にうちなんかからすると、地域を選ばないと言うか、
東京とかの人にも地方のことを知ってもらいやすくなっている、
ということはありますよね。
__
23年前に立ち上げたときとは、だいぶやり方が変わってきてるんですね。
山川
違いますね。
__
じゃあちょっと、頭の切り替えじゃないですけど。
山川
そうですね。
日本の出版業界は1996年をピークに、グッと下がってきてるんですよ。
この23年。
吉備人を作ったのが1995年だから、
立ち上げてすぐがピークで、あとは下がる一方なんですよ。
そんな中で、岡山の本を作っても
なかなか全国で売れるっていうふうにはいかないんで。
でも逆に言えば、
インターネットがどんどん広がっていくにつれて、
書籍の販売っていうのは落ちてきている。
それはやっぱり、インターネットの影響があると思うんですよね。
そうすると、インターネットが
本の世界、書店なんかを圧迫をしているんだけれども、
地方の我々とすれば、
逆にそれによってamazon のようなものができて、
地域を越えて、欲しいものに手が届く、
フラットな状態になってきてるんですよね。
それはむしろ逆に有利に働くとは思っていますね。
__
インターネットがまだ普及していない頃は、
中央集中じゃないですけど、
何でもとりあえず東京行かないと手に入らなかったけれど、
ネットの発達で、あんまり差がなくなってきているから、
逆に地域の特色を出しやすいということはありそうですね。
山川
それはありますね。
__
この丸の内という場所には、何かご縁があったんですか?
山川
最初はね、津島モールのすぐ前にある雑居ビルに9年間いて。
そこはそこで、大学も近いし、非常に居心地も良かったんだけど。
僕、引っ越し癖があって(笑)。
転居したいんで、出石、天神、丸の内、内山下とか、
この周辺どうかなと思って探してたら、
県立図書館ができる同じ年の6月にここを見つけて。
静かだし、いい場所なのに、意外と家賃も安いし、みたいな話があって。
それで来てみて初めて、
周りには後楽園や岡山城、林原美術館もあるし、
すごくいい場所だなと思って。
__
あらためて、再認識を。
山川
そうそう。
__
津島からこちらに引っ越す時に、
この辺りに的を絞っていたのは何か理由があったんですか?
山川
たまたまかな。
でも、ここから出石に向かって石関とか、
あの界隈ばっかり探してたから。
__
今までいろいろ本を作ってこられて、何冊くらい?
山川
660冊くらいかな。
__
その中で、思い出に残っている本とかありますか?
山川
いやー、そう言われると難しいなあ(笑)。
思い入れの深いものはあるけどね。
この界隈の本で言うと、何だろうな…。
関わりの深い本という意味で言えば、
「愛だ!上山棚田団」がありますね。
ちょうど15周年の時に、初めて作品を公募したんですよ。
それで最優秀賞を自分のところから出そう、
ということで、応募してもらって。
上山棚田団の本の原稿が届いて、
色々議論したうえで本になって。
形になってからは、
あれよあれよという間に上山の連中が有名になって。
__
有名になりましたよね。
山川
鳥取県の図書館協会が主催している、
地方の出版物ばかりを検証する「地方出版文化功労賞」の奨励賞にも選ばれて。
ちょっと異色な地方の活動の本ということで、話題にもなって。
__
インパクトありましたもんね。
山川
大きいでしょうね。
やっぱりあれはね、印象深く残ってる。
__
はじめての公募ということですけど
あの本を作っていく中で、大変なこともありました?
山川
あれは大変でしたね。
公募なので、一応形にはなっているんだけど。
__
原稿は一通りあって?
山川
あったのはあって。
それでまあ選んだんだけど。
作っていく過程で、著者が一人ではないので、
何人かが複数で関わっていて、色々思いもあるし。
自分たちのエネルギーがすごくあるんだけど、
原稿としてのまとまりはね。
自分たちはわかってるんだけど、
読む我々の側には、なんのこっちゃ、みたいな話で。
__
書く側と、これを誰かに読ませるってなった時に、
そこを埋めていく作業が必要になる。
山川
そうですね。
ちょっと乖離があるのを少しずつ埋めて、
もっとわかりやすくして欲しいみたいなことで、書き直したり。
こちらからお願いして、向こうも書き直してもらったりとか、
そういうこともあって。
結構できるまでには時間がかかったかな。
__
タイトルの「愛だ!上山棚田団」。
あれはもう、最初から決まってたんですか?
山川
そうですね。
著者の協創LLPのみなさんさんが考えて。
__
いいタイトルですよね。
なんだか、衝撃的だったのを覚えてます。
売れた本ですか?
山川
そこそこ売れたかな。
でも何よりも、岡山の県内に、美作に、
あんな棚田を再生してるグループが、
しかも関西の人が来てやってるっていうのは、ほとんどノーマークで、
僕は原稿を見て、その存在を初めて知ったんだけど。
そういう意味では、初めて市民権を得て、彼らは脚光を浴びて、
みんな見学に行ったりとかして、ひとつのああいうカタチができて。
いろんな意見はあるだろうけれど、
ひとつのモデルケースになって、今も続いていて。
__
地域おこし協力隊の、走りのイメージありますよね。
山川
そうそう。走りですよ。
__
今、全国的にすごく増えてますよね。
山川
増えてる、増えてる。
僕もその時、はじめて「地域おこし協力隊」というのを知って。
何それ、っていう話で。
でも、若いすごく優秀な人たちが、
考古学やってるような人とか、
なんで君、こんなところで草刈りとかやってるんだ、
という話をしながらね。
それで、今、
いろんな分野で中心になっている人たちも、その中にいて。
__
そうですよね。
その当時、まだ20代の若い人たちが、
みんな、あの場所で結婚したりされてね。
なんだか、覚悟を感じますね。
山川
30歳も超えてね。
__
あの本が注目されたのって、たしか2011年ぐらいですよね。
ちょうど「新しい公共事業」という
国の政策が各地方で実施されはじめた時期で、
私も当時、丸の内で喫茶店をしていたところから、
NPOという新しい働き方を始めた頃で、
初めて「中山間地域」とかいう言葉も知って。
岡山市内にしかいないと、
あまりそういう市内以外の動きって分からないし、
NPOという活動にかかわって初めて、
岡山でもいろんな動きがあるというのを知りました。
それで、そういう本でまた、上山のことも知って。
だから、媒体を通して、
今まで知らなかったことを知るきっかけになるという、
大きな印象に残る本でした。
山川
NPOっていうのはね、前からいろんな形があったけど、
あぁいう活動が表に出て、っていうのはあまりなかったですからね。
__
そうですよね。
みんつく(公益財団法人 みんなでつくる財団おかやま)の
ソーシャルライター講座はまだ継続してされてるんですか?
山川
はい。やってます。
みんつくのは、毎年大体、6~7回くらい。
__
あれは始まったのはいつ頃ですか?
山川
10年近く前かなぁ。
__
定期講座として、継続して実施されてるんですね。
ライター講座の手応えはいかがですか?
山川
毎回熱心に来てくれて、
そこでいろんな人たちと僕も知り合えて。
毎回講座をやって話してると、そういう人たちの輪が広がる。
それぞれの人たちがNPOをやってたりもするし、
付き合いが広がっていくというか。
そういう点では教えてるというよりも、ネットワーク作りになってる。
__
参加する方は、毎回新しい方ですか?
山川
毎回、新しい。ほぼ。
__
いろんなジャンルの方ですか?
山川
そう。色んな人が来てくれる。
__
それは、お仕事の方もいれば、趣味の人もいて?
山川
そうそう。
でも基本的には、NPOとかで活動をやっていて、
広報とか発信力を身につけたい、という人が多い。
学生さんも最近は増えてる。
__
「ソーシャルライター講座」ですもんね。
山川
そうそう。
__
発信するメディアにもよると思うんですけど
自分の思いをただ書き連ねる、って言うのと
それがちゃんと伝わる文章になるっていう
そこの違いを
ちゃん考えた上で書く、ということが大切なんでしょうね。
山川
僕らは元々、新聞とかそういうところから入っているから
旧メディアの書き方。
それが使えないわけじゃないけど、
やっぱりSNSで、Facebook だとか Twitter で情報発信していくってうのは、
また違うテクニックみたいなものがあって。
一応、「伝える、繋がる」っていうことを勉強会でするんですけど、なかなか。
基本的なところは伝えるんですけど。
SNS はスピード感が大切だから、
自分たちが現場へ出て行って、
そこで写真を1枚撮ってすぐに発信するっていう、
そういうフットワークの良さとか。
__
リアル感、みたいなものですかね。
山川
そうそう。
それが大事だと思う。
たくさん書かなくても、
石山公園で今日こういうイベントをやってて面白かった、
みたいなの一言を書けば、それを見た人が、
じゃあ次、石山公園に行ってみよう、って思うとか、
そういう効果がソーシャルメディアにはあるよね。
__
やっぱり媒体によって、ターゲットと言うか、
どういう人に伝わるかっていうのを意識して発信することが大事ですか?
山川
意識をするんだけど、
伝わる相手というのは、
自分が思っているのと、違う場合もあるよね。
僕はいつも講座で、
書くときに、これは誰に向けて書いているのかということや、
具体的に情報を伝えられる書き方をしよう、っていうことを言っていて。
どの程度理解してくれてるかわかんないけど。
そうすると、
実は、Aさんに近いところとか、Aさんのような人たち、
っていうのがたくさんいて、
例えば、外で食べたり飲んだりするのが好きな人たちが
このネタで反応してくれるかなと思ったら、
全然思いもよらないところの人たちが賛同してくれたりとか、
そういう面白さはあると思う。
__
狙い以外のところに繋がっていく面白さ。
山川
そうそうそう。
昨年度のソーシャルライター講座で取材に行ったある団体の代表の方は、
すごい発信力があって。
もう毎日、とにかく書く。
しかも、たとえば、長文になるやつはブログを使う、
写真が効果的なものはインスタやfacebookに載せる、
深刻な悩みなどはクローズな場所で共有する。
そういう風に、きめ細かく、
意識的にメディアを上手く使い分けていて。
団体の代表をやっていて、表に立っているけど、
彼女自身が広報の役割も担っている。
いつも言うのは
NPOとかをやっていて一番大事なのは
やりたいミッションとお金と広報、この三つが三本柱。
小さな所帯だと、トップに立って旗振る人間が広報をやるのが、
一番伝わりやすいと思う。
__
こんなことをやりたいんだ、っていう、
伝えたいことの先にあるイメージと言うか、
そういうのを丁寧に伝える必要がありますもんね。
山川
だから、僕もそこから学んで、
とにかく毎日1本は、朝、書くようにしていて。
__
SNSでは、情報は流れていってしまうし、
そもそも知らないことに対しては興味を持つことができないですよね。
だから、伝えたいモノ・コトの情報を伝えるには、
まず知ってもらう、興味を持ってもらうっていうことが、
すごく大事なんだなって感じていて。
そのためには、今教えていただいたような、
とにかく毎日継続して発信する、
というのも、ひとつの方法ですね。
どこかで、何かに、引っかかるかもしれない。
山川
そうですね。
僕、犬の散歩をするので、
週に何回かは、朝6時台とかに石山公園を通るんですけど。
あそこは6時半頃から、地域のみなさんがラジオ体操をしてたりとかして、
自分としてもすごく好きな場所だし、
いろんなイベントをやったりして、
すごくいいスペースだなと思うんだけど。
でも、ちょっとスペース的に余裕がないと言うか、
そんな感じがしていて。
行ったことはないけど、ヨーロッパの公園みたいになると、
少しはねいいのかなと思うこともあるかな。
__
昨年、石山公園の利用者に対してのニーズ調査をした時に
同じようにワンちゃんのお散歩とか、お昼の休憩にとか、
それぞれの目的をもって石山公園に来る方は一定数いる
っていうことは分かったんです。
だけど、ほとんどがやっぱり通り道としての利用なんですよね。
でもそこに、ちょっと座りやすいベンチとか、
ちょっと日避けになるスペースとかがあったらいいねとか、
段差があるところが、もうちょっとフラットになって歩きやすくなったら、
足の悪い方とかこどもたちも歩きやすくなるよね、とかいう声も聞かれて。
たとえばそこに常設のカフェができることで、
今まで通りすぎていた人が、
ちょっと立ち寄ってゆっくり休憩してから次の目的地に行くとか。
そういう、行動パターンが少しずつ変わっていくことで、
場所の魅力を知ってもらうことにつながったり、
来園動機のひとつのきっかけになるのでは、ということで、
カフェの常設ということを岡山市としても検討していているみたいなんですけれど。
山川
2年前の、オープンカフェの実験でエアストリームがあった時に、
気にはなってたから、朝の開店を待って、
一回コーヒーを飲みに行ったんだけど、犬連れて。
どういう気分になるかなと思って。
ロケーションのイメージとしては、
朝散歩して、あそこにカフェがあって、コーヒー買って、
犬と散歩しながらコーヒー飲むの、かっこいいだろうな
と思って行ったんだけど。
確かにそれはそうなんだけど、どうだろうな…。
カフェがあったらいいとは思うけど、
道を隔ててすぐそばにカフェがあって。
じゃあそこが、
そんなに人が集まるスペースになってるかどうかはわかんないけど、
そう考えた時に、
あのオープンカフェの実験をやった場所に、
お客さんが集まってきてるのかって言うと、そうでもない気がするし。
その辺があんまりわかんないと言うか。
あの会期中に行ったのは、僕も朝一回だけだし。
__
そうですね。
ただ大勢人が集まればいいかというと
それも違う気がしますね。
もちろん、行きたくなるようなカフェであることは大前提ですけど
カフェフェはあくまでも、きっかけというか、
ロケーションや場を楽しんでもらうためのアイテムのひとつとして
機能すればいいのではないかと思いますね。
山川
石関緑地との連動というか、通路なんだけど、そういう一体感。
あのスポットだけだとこじんまりしているけれど、
石関まで伸びる感じがあるといいのかな。
__
道が繋がると、また公園の使われ方も変わるかもしれないですよね。
山川
好きなスポットなんだけどね。
夜、何回か、川に向かってカウンター設置したイベント(夜市)をやっているけど、
あれはすごくいいと思う。
ゴールデンウィークとお盆にやってる時とかは、
時間があるときは行ってビール一杯飲んだりとか。
人が多いとなかなか行けなかったりもするけど、
あれはいいなと思ってね。
__
あのカウンターは、地域の人々のアイデアをカタチにしたものなんです。
旭川沿いに設置したカウンターで、
岡山城、後楽園とかのロケーションを楽しみながら飲食を楽しめるのって
贅沢な空間ですよね。
山川
うん。
あれはいいと思う。
いつでも、あのロケーションで、
飲んだり食べたりできる場所があってもいいと思う。
__
街なかに、あんなに緑がたくさんあって、水辺があって、
清涼感のある心地よい場所というのもなかなか貴重というか。
山川
そう、あの場所は非常に良いと思う。
__
岡山カルチャーゾーンには、たくさんの観光・文化施設がありますけど、
行かれることとかありますか?
山川
県美(岡山県立美術館)には、たまに見たいものがある時に行ったりとか、
オリエント(岡山市立オリエント美術館)には、特別展がある時に行ったりとか、
県博(岡山県立博物館)は割と近い存在なんだけど、なかなかね。
__
地域の方が、頻繁に行くっていう場所ないのかもしれないですね。
各施設、色々いい企画を考えられて、やってらっしゃるんですけどね。
山川
考えてみると、これだけの施設が集まっている地域だしね。
__
こんなふうに、
コンパクトに文化的な施設がギュッと集まっている所って
なかなか全国的にも珍しいらしくって、上野が割と近いのかな。
だから、この地域の特徴ではあると思うんですけどね。
「カルチャーゾーン」っていうネーミングに親しみはありますか?
命名から約30年ほど経つようですけど。
山川
多分その名前が付いた当時、
カルチャーっていう言葉がひとつの時代の象徴みたいなだったんだと思うよ。
__
文化的なことに目を向けて、みたいな時代だったんでしょうね。
30年経った今、カルチャーっていう言葉は一般的になってますけど。
ネーミングされた頃は、
そういう都市計画みたいなのが
色々立ち上がってた時代だったのかもしれないですね。
山川
そういうのが盛んだったからね。
なんとか通りとかね、いろいろ名称をつけて。
うまくいったものもあれば、うまくいってないものもあり。
__
岡山市内のいろいろな場所によっても、
それぞれに顔が違うと言うか、特徴が異なるというか。
このあたりの城下界隈があり、西川緑道公園や県庁通り、イオンの周りとか。
そういう意味ではこの辺りは、文化の香りとか、感じますか?
山川
文化の香り…。そうだなぁ…。
自分たちの力不足も少し感じるけれど、
古い本屋さんとかそういうものがもっとたくさんあるといいかな。
__
神田みたいな感じで。
山川
そうそう。
あれくらいの感じとかにすれば、
少し文化的な感じもするかなと思ったりもするけど。
__
観光施設や文化施設は沢山あるし、
そういう所に行くことだけが文化的ということでは
決してないと思うんですけど、
でも、せっかく身近にあるなら、
もっと気楽に行ける感じになるといいのかもしれませんね。
あとは、日常的にそういう場所に行かない人たちも、
たとえば、街角とか公園とかで自由にパフォーマンスしたりとか、
そういうことが増えたり、
そういうことができる街になってくると、楽しくなるのかなって。
日常の中から生まれてくるものや生活そのものも、
まさに「文化」だし、
もう少し日常的な日々の中で、
そういう音や匂い、気配なんかを
感じられる場所があってもいいのかなって思うんですけど。
石山公園含めカルチャーゾーンが、
そういうエリア、場所になるといいかなって。
山川
後楽園の外周の「水辺のももちゃん」の辺りでは
よく楽器の練習をされてる人がいたりはするけどね。
今、石山公園の下の、旭川の河川敷がすごく綺麗になって、
あそこなんか使えばいいよね。
楽器の練習をする場所に困ってる人とかが利用したりね。
運動公園のジップアリーナの前とか、シンフォニーの下のビルの鏡の前で、
若い子がダンスの練習してたりとか。
そういうものがあの空間の中であれば、
そういうことをしていい場所なんだ、みたいないいことが伝わっていって。
それが場所としても機能して、
絵を書いたり歌を歌ったりしてる人がいて、犬連れてる人も歩いてたりして、
そういうのを体験してもらう、作っていくような場所になってもいいんじゃないのかな。
最初のきっかけを作ってあげられればいいのかな。
__
そうですね。
そういう風に使っていいのかどうかも、
今はよく分からなかったりしますもんね。
山川
そうそう。
__
公共のオープンスペースである公園を
綺麗に、大切に、っていう管理の側面と、
使う側の視点から、育てる・運用する、
という側面との組み合わせで成り立っていて、
公園ごとに特徴は違うから、
それぞれの公園にあった使い方やルール、仕組みをつくりましょう
っていうのが、いわゆるパークマネジメントなんですけど、
公園のリニューアルと合わせて運用開始する予定で、
そういう中に、
コミュニケーションや文化が生まれて育っていくような、
楽しい使い方やアイデアを取り入れて行けたらいいですよね。
山川
実際に使ってやってみると楽しかったりすると思うので、
石山公園のこのスペースは、こういう形で使えますよ、みたいに、
どんどんそこを使ってみて、
自分たちはこんなことをやっていて面白い時間を過ごせたみたいな声を
どんどん発信していったり、
そういうことができる場所、空間があるということを知ってもらったりして。
それで今度は、それをめがけて人が来て、
っていう感じになってくるといいんじゃないかな。
定着するまでには時間もかかると思うけど。
そういう中で、こんなものがあったら便利だとか、カフェが必要だねとか、
いろんな意見が出てくると思うんですよね。
__
本と公園って、相性良さそうですよね。
山川
東屋で本読んでる人とかもいるしね。
__
普段、本はどういうジャンルを読まれますか?
山川
小説も読むし、でも、仕事関係の本が多いかな。
__
元々本がお好きだったんですか?
山川
普通ですよ。
特別好きな方ではなかったけど、でも、小さい時から本は好きでした。
__
近くに県立図書館があるのって、何か相乗効果あったりしますか?
山川
ありますよ。
うちで本を出してくださる著者の方々で、
図書館に出入りする人っていうのは結構いて、
図書館に来たからついでに寄るわ、っていうような人はいるし。
僕も、借りられる本は図書館でずっと借りてて。
__
先日、来館者数や個人貸出率が
13年連続で全国1位って発表になってましたね。
そういう意味では岡山の人、本が好きなんですかね?
山川
好きなんでしょうね。
すごい集客力だよね。
でも図書館行くだけで、他には行ってないんだろうね。
__
行くと、いつも結構な人がいますもんね。
山川
いますね。
今の図書館は、地域づくりの場になってところが多いみたい。
岡山で言えば、瀬戸内市とかもそうだし、
今までは本を読んだり借りたりする場所が図書館だったけど、
そこでもっと地域のことを知ったりとか、
ミニシアターがあってとか、多様な機能を持って、
もっといろんな可能性が広がるような地域づくりの場所
っていうのが図書館になってきてる感じですね。
__
新しいコミュニティの場所になってるんですね。
本を通じていろんなものが変わっていく、
っていう可能性もあるんでしょうか?
山川
県立図書館はあるけれど、そこから繋がって、
市立図書館があって、古本屋さんがあって、新刊の一般の書店があって、
っていう風に、いろんな本を扱う施設がずらっとあったら面白いし、
そうすると、そこを目がけて人が来るようになる。
__
需要はありそうですよね。
山川
情報や本を通じた出会い求めてここに来る。
神田じゃないけどね。
__
そういえばこどもの頃、貸本屋ってありましたよね。
山川
あった、あった。
__
今、ないのかな。
山川
ないねぇ。
__
こどもの頃、奉還町界隈に住んでたんですけど、
そういう古い貸本屋さんや古本屋さんがいくつかあって、
何十円、何百円とか握りしめて、よく通いました。
でもやっぱり、インターネットの普及で需要が無くなっちゃったんでしょうね。
山川
本屋さんでも、一般的な本屋さんだけじゃなくて、
専門的な分野を扱う本屋とか、
ちょっと特殊と言うか、マニアックな関係の本ばかり置いてるとか、
そういうのは小さなスペースでもできるだろうから、
音楽でも演劇でも映画でも、何かに特化したお店。
そういうのが集まると、文化作りに繋がっていくんじゃないかな。
__
色んなジャンルの本があると、
そのジャンルに関わる人たちが、そこでまたつながったり
新しい広がりが生まれそうですね。
山川
うん。
飲食の本があれば、そういうのが好きな人が集まってきて、
その隣に、あまり関係ないんだけど歴史の本とかがあると、そこが繋がったりして。
__
そういえば、昨年、旧内山下小学校を活用した社会実験をやった時、
歴史をテーマにした事業だったので、
岡山の食文化の歴史ということで「ばら寿司」を調べていたら、
池田光政の藩政の中で市民が生み出した食べ物だということが分かって、
そこで歴史と食べ物がつながって、みたいな発見がありました。
山川
それが文化だもんね。
__
そういう発見の面白さもありますよね。
ブックストリートじゃないけど。
山川
それ面白いかもしれないよね。
うちみたいな出版社も、そこにあったりして。
__
いいですね。
出版社と、本を作りたい人がそこでつながる、
情報交換する場になっても面白いでしょうね。
吉備人さんは、23年経って、
これからどんなことを目指すとかありますか?
山川
難しいなあ(笑)。
でも、地域の出版社のあり方自体も、
我々の狭い出版業界の中では過渡期というか。
古い今までのやり方、地方出版のあり方、
歴史の本をコツコツと作って出してた時から、
僕らの世代がちょうど過渡期で。
僕らがやろうとしているのは、
ENNOVAさんたちや、地域の市民と一緒に作る本。
要するに、プロではなくても一緒に作って、
それが地域づくりだとか、
そういう運動、共感、というようなキーワードで作る本。
地域活動とかを本にして、活用していく、というような本。
今までは、教養のための歴史とかの本が多かったけど、
これからは地域づくりと本を作る我々とが一緒になって、
ネットが中心になるとは思うけど、
でもやっぱり本でないとわからない、掴めないこともあるわけで、
そういうものを地元の出版社がちゃんと作っていく。
__
丁寧に。
山川
うん。
それが大事だと思うから、僕らは本を作り続けないといけないと思っている。
__
本の作り方って、
作りたい人の依頼を受けて、という関係性があると思うんですけど、
作りたい人の持ち込みもあるし、出版社側からの提案もあって、っていう。
山川
そうだね。
__
そこの形を、もっと色々、ダイナミックに混ざり合わせて、
もっと違うかたちの、本を介した新しい関わり方がはじまると面白いんでしょうね。
山川
出版社というのは、
本を作るところという認識で、もちろん仕事をしているんだけど、
だから、街自体が元気じゃないと、地域の本なんてできない。
上山が良い例で、
何にも手付かずの時には、上山から本を出そうという人はいないわけで。
あそこを何とかしようと思って人が来て、動き出して初めて本ができて、
そこに人とか文化がないと本はできないわけで。
僕らとしては逆に、そういう地域にしていかないと本はできないわけだから、
じっと黙って見ているわけにはいかない。
__
それぞれの場所で起こっていることが、きちんと物語となって。
山川
今回の災害でも、出版社としてどう関わっていくか。
ただ見ているだけではなくて、
地域が再生していくためにできることは何なのか。
記録して残すこととか、何かあるはずなんですよ。
そういう地域づくりと関わって本を作っていく。
その関わる役割が何なのかを考えながら。
__
今年は特に岡山でも、
今まで想像つかなかったような災害が起こったり、
これからも驚くようなことや楽しいことも、
いろんなことが私たちのまちで起こるでしょうけど、
そういうことを丁寧にすくいあげながら。
山川
そうでしょうね。
今の岡山のこの街を残していく、記録をして、発信していく。
それを僕らは、本だけじゃなくて、
色んなメディアを通じて発信していく
ということを考えて作っていかないといけないと思ってます。
__
それが役割。
山川
そうですね。
__
私たちだったら、ENNOVAというチャンネルで、
吉備人さんは出版社として、
それぞれの役割で
街を見守ったり作ったり関わったりしながら
みたいな感じですよね。
山川
そうですよね。
__
今回、このサイトを立ち上げるにあたって、
年齢も職業も環境も違ういろんな方にお話を伺っているんですけど、
カルチャーゾーンという、ひとつのエリアにいるけど、
町内ごとに違う特色もあるし、
それぞれの方に、それぞれの物語があって
色んな発見があるんですよね。
まちづくりについてもいろんな考え方があるだろうし、
それらが混ざり合って街ってできていくのかなと思っているので、
地域のみなさんのリアルな声を丁寧にひとつひとつ形にして、
私たちなりにこのサイトを通じて届けられたらな、って思ってます。
山川
今までも、あらためて話を聞かれることもなかったからね。
こんなふうに、聞かれたり話したりすることで
コミュニケーションが生まれるから、
そのことで興味が生まれたりすることが、
新しいまちづくりに繋がっていくんだろうね。
山川 隆之(やまかわ たかゆき)
株式会社 吉備人 代表取締役
株式会社 吉備人
岡山市北区丸の内2丁目11-22
電話 086-235-3456
FAX 086-234-3210
WEBサイト ▷ 「岡山の本は吉備人出版」
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